私は35才である。子供に「おじさん」と呼ばれるとムっとしたのはせいぜい20代まで。今では「そうだねー,おじさんだねー」と心から同意してしまうのだから,月日の経つのは早いものだ。

 会社の後輩と話していてもビックリすることがある。「メール・クライアント何使ってるんですか?」「個人用は秀Term Evolution」「何ですかそれ?」「パソコン通信ソフト」「パソコン通信って何ですか?」「おまえ,パソコン通信したことないの?」なんて具合で話の通じないことおびただしい。

 こうした若者には,パソコン通信ソフトでメールをやりとりすることがどんなに楽なことであるかを説明しても,決してわかってもらえない。文字のストリームが目で見えるので通信状況が手に取るようにわかる,余計な通信がないので速い,ピュア・テキストのログがあるので情報を失わない,ウィルスの心配がない,マウスに触らずキーボードでチャカチャカとコマンドを入力するだけで済む。実を言うと,秀Termだって別になくてもいい。UNIXでもLinuxでもWindowsでも,最近はtelnetクライアントが標準装備されている。それで,たとえば@NIFTYにログインすればいいだけだ。

 まあ,みんながみんなパソコン通信ソフトでメールのやりとりをした方がいいとは言わない。私の場合,メールが急増して運用方法をまじめに考えたのが1992年で(当時はWTERMだった),そのデータ資産を壊さないように同じやり方を継続してきたというだけのこと。今からメールを始めるなら,GUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)で武装したゴージャスなメール・クライアントがたくさんあるのだから,それを使う人が多いのは当然だろう。

 ただ時代はGUI全盛で,もうCUI(キャラクタ・ユーザー・インタフェース)なんて過去の遺物だと言うのは,それはどうだろうか?

 一般パソコン・ユーザーだったらいざしらず,コンピュータにかかわる技術者やソフト開発者であるならば,CUI,言い方を変えればコマンドライン・インタフェースによる操作,ターミナル/コンソールからテキスト・コマンドを打ち込んでコンピュータを使う方法は,まだまだ不可欠だと思う。

 理由はたくさんある。

(1)CUIはソフトが作りやすい,
(2)CUIは遠隔操作がしやすい,
(3)UNIX/Linux/FreeBSDがCUIである,
(4)インターネットの基盤ソフトがCUIである,
(5)最初に用意される開発ツールはCUIである,などなどだ。

 CUIはGUIに比べて入出力の選択肢が少ないので,プログラムを作るのが楽だ。リダイレクションやパイプといった,複数のプログラムを組み合わせて使う方法も確立されている。遠隔操作がしやすいのは,telnetをはじめとするリモート・ログインの環境が整っているからだ。今や,Windows 2000のProfessionalでさえtelnetサーバーを標準装備している。特別なソフトを買い足さなくても,CUIを使えば運用管理がグンと楽になるはずだ。

 言わずもがなのことだが,CUIを使えなければUNIX/Linux/FreeBSDの利用に支障をきたす。インターネットの基盤になっているのはUNIX/Linux/FreeBSDであり,その上で動くソフトウエアのほとんどはCUIを前提にしている。だから,CUIが使えなければインターネット時代に対応できない。開発ツールについては,JavaのJDKはまごうかたなきCUIツールだし,KylixやVisual Studio .NETだって,最初に作られ,限られたテスターに配布されたのはコンパイラを中心としたCUIのツール群だけだった。

 こんな風に見てくると,CUIを嫌っていては技術者としての将来は暗い,という気がしてくる。私くらいの世代の人,MS-DOSで「del *.txt」と打ち続けてきた人は何も心配することはない。昔取った杵柄(きねづか)で,必要になればいつでも,Windows 2000のコマンド・プロンプトやUNIX/Linux/FreeBSDのktermからコマンドをガンガン打ち込めることだろう。

 問題は若い人たち,Windows 95の登場以降にコンピュータを使い始めた人たちだ。これからCUI操作を学ぼうとしても,日常的にその必要性を感じていないし,参考書はないし,教えてくれる人もいない。あまりにかわいそうではないか。

 そんなわけで,日経ソフトウエア2001年11月号の特集は「コマンドラインを使いこなそう」なのだ。

(原田 英生=日経ソフトウエア)