国内大手電機メーカーが相次いで2001年度業績の大幅下方修正をしている。それに伴う構造改革を打ち出すところも多い。

 各社の改革で共通するのは,最大の赤字を出している半導体事業の大幅見直しである。年間で数百億円以上もの赤字が予想される状況では,大改革が早急に行われる必要があるのは確かだ。しかし,各社が打ち出している改革は従来の延長でしかなく,問題の本質的な解決にはなっていないようにみえる。

 IT Proの読者には,半導体事業に従事されている方は少ないかもしれない。でも,電機メーカーとしての半導体部門の改革とは少なからず関係してくる方は多いだろう。また今,半導体事業にみられる改革先送りは,本質的には多くの日本企業にも共通しているように思えるので,少しでも興味を持ていただければありがたい。

DRAMを縮小しても大丈夫か,半導体事業を牽引できる製品が他にあるのか

 半導体産業のような巨大設備産業には,その事業を技術面と収益面で牽引するものが不可欠だった。これまで国内の大手半導体メーカーにとって,その両面を担ってきたのがDRAMだった。そしてDRAMに巨額の投資ができなくなった今の段階で各社が牽引役として挙げるのが,システムを1チップに集積するシステムLSIである。

 しかし,本当にシステムLSIが半導体産業の牽引役となるのだろうか。たしかに設計面でも製造面でも最先端技術が必要とされる。モバイル分野では低消費電力化技術も必要だろう。技術面で牽引することは確かである。しかし,最先端の技術を使った生産ラインで,どういった製品をどれだけの数量作るのか,それで投資が回収できるのかを考えると,はなはだ心許ない。

 これまでも半導体大手は,DRAM比率を下げてシステムLSIに注力してきているはずである。ところが今回のような業績悪化を招いてしまった。9月14日に,2001年度の業績の下方修正を発表した三菱電機の場合,DRAMの比率はわずか5%しかなく,システムLSIが54%を占める。それなのに,電子デバイス部門の営業赤字は490億円にもなっている。

 よくシステムLSIの好例としてソニー・コンピュータエンタテインメントのプレイステーション2(PS2)が挙げられる。PS2に使われた半導体が最先端であることは誰もが認めるところである。ただ,これはあくまでPS2が確実に1000万台以上の生産が見込めるからこそ,巨額の投資が可能になったのだ。こうした1社で高付加価値の製品を独占できる製品は極めて少ないのではないだろうか。

ビジネスのやり方を根本的に変えるつもりがあるのか

 システムLSIでは,顧客の要求をいかに満足させていくかのサポート面が重要である。そういった意味では,システムLSIを売るにはシステム・エンジニア的な要素が求められる。ところが,これまでハードを売ることには熱心だったが,ソフトについてはほとんどタダ同然にしてきた日本メーカーが,どこまでサポート面で利益を上げる体制を作っていくつもりか,はなはだ疑問である。

 DRAMはある意味では幸せなビジネスだった。投資のタイミングで戦略性を求められるが,利益を上げたときの金額は大きい。大型コンピュータからパソコンと主要用途は移っても,大容量化が要求されるというトレンドは変わらなかった。一つの方向に突き進むのが得意な日本のメーカーにはピッタリだった。シリコン・サイクルという好不況の波にさらされるが,儲かるときは横並びだし,損しても横並びである。意地悪な言い方をすれば,責任を経営判断ではなく景気の循環に押し付けることが可能なビジネスだった。

 ところが,システムLSIやフラッシュ・メモリーの場合には明確なトレンドがない。携帯電話機は今後も高性能化が続くので,フラッシュ・メモリーはあるトレンドに乗って容量が上がっていくという見方はある。しかし,パソコンのように世界中ですべての携帯電話機が同じようなトレンドで大容量化が進むとは考えにくい。次世代の3G(第3世代)どころかiアプリのような携帯電話機でさえ,海外では使われない可能性がある。

 ただ,こうしたトレンドが不透明だからからこそ,他社に先行してビジネス・モデルを確立することが重要になってくる。残念なことに,そこは国内の電機メーカーがこれまで苦手としてきたところなのだ。

電機メーカーとして半導体の位置付けはどうするのか

 大型コンピュータ向けに半導体を開発している時代には,半導体事業を抱えている意味があった。しかし今後,電機メーカーとして半導体事業を持ち続ける意味はどこにあるのだろうか。この疑問に対してよく言われるのが,半導体に機能が集約され「システム開発 = 半導体のチップ開発」になってきており,自社内に半導体を持つことが有利に働くというものである。

 確かに情報家電などはそういう面が強い。特に技術とブランド両面で世界のトップ・クラスにある家電メーカーにとって,商品を差異化できるシステムLSIを開発することの重要性は増している。ところが,家電最大手の松下電器産業やソニーなども当然のことながら半導体事業を強化しようとしている。そのときに大手電機メーカーとしてはどうするのか。

 松下やソニーのように,自社向けを最優先するという方向もあるだろう。家電だけでなく,今,日本が先行している携帯電話機に特化してもよい。逆に,半導体事業は完全に別会社と位置付け,他社とアライアンスを組む方向もあろう。ただいずれにしても,電機メーカーとしての半導体事業の在り方が問われる。

 以上述べた三つの問題点は,従来から指摘されてきたことである。しかし,結局は本格的に取り組むこともなく先送りされて今日に至っている。今後の各社がどのような分野に重点を置くかは,各社の持てる資産によって当然変わってくるはずである。現時点の改革を見ると,これらの本質的な問題に取り組んでいるようにはみえない。

 経営陣が「単なる景気の循環ではない。IT産業も構造不況業種」(東芝の岡村正社長),「1985年の半導体不況に比べても電子産業分野がマイナスになっていることから過去最悪」(NECエレクトロンデバイスの杉原瀚司社長)というほどの認識であれば,もっと本質的なところでの改革が待たれる。

(中村 健=日経マーケット・アクセス編集委員)