2001年10月1日,NTTドコモの第三世代移動通信サービス「FOMA」が商用サービスへと移行する。FOMAの“売り”である最大で上り64kビット/秒(bps),下り384kbpsの高速パケット通信を使えば,静止画や音楽のダウンロードなども可能になるが,5月に開始した試験サービスでは大量データを受け取った際に利用料金がかさむことなどが指摘されていた。しかし,9月3日に発表された料金プランを見たところ,企業のモバイル・システムという用途では,これまでの通信サービスの課題を解決してくれる一つの選択肢になり得ると感じた。

PHSはエリアの狭さ,現行パケットは遅さが課題

 昨年あたりから,ノート・パソコンやPDAなどを利用したモバイル・システムを構築する企業ユーザーの動きに拍車がかかってきた。日経マーケット・アクセスが2001年4月に実施した調査 *1 によると,何らかのリモート・アクセスを利用している企業の割合は,2年前の35.5%から53.9%へと急伸している(調査結果1調査結果2)。では,通信サービスは何を選ぶのがベストなのだろうか・・・。

 候補として真っ先に挙がるのは,既に持っているという手軽さから携帯電話(PDCの交換回線)だろう。しかし,日経オープンシステム9月号の特集記事「2001年版 モバイル・システム構築法」で取材した範囲では,PHSを利用するユーザーが多い。

 イトーキやライオン,丸越は,携帯電話の9600bpsを上回る32k/64kbpsという通信速度を評価してPHSの導入を決めた。またカード型の通信端末が充実してきたことで,接続ケーブルを持ち歩く手間が省けるようになったことも,PHSの普及を後押ししている。NTTドコモの「P-in Comp@ct」やDDIポケットの「C@rd H" 64 petit」といった「コンパクト・フラッシュ タイプ?」型なら,PDAに装着して使うことも可能だ。

 しかし,PHSは携帯電話などに比べて通信可能エリアが狭い。そのため,紀文フレッシュシステムのように,「当初はPHSを使おうと考えていたが,郊外の配送センターがPHSのエリア外だったため,利用をあきらめざるを得なかった」というユーザーもいる。

 成和産業や三浦工業は携帯電話やPHSではなく,パケット通信を選択した。NTTドコモの「DoPa」やauの「PacketOne」といったパケット通信は,携帯電話よりも通信速度が速く,かつNTTドコモが人口カバー率99.99%をうたうようにPHSに比べて通信可能エリアも広い。

 何より,1パケット(128バイト)ごとに課金される従量制が,企業ユーザーの利用形態にマッチしている。特に少量のデータを何度もやり取りするような業務では,基本的には1回の通信で10円以上かかるPHSよりもコスト的に有利だ。成和産業や三浦工業も,このパケット従量制課金が導入の決め手となった。

 パケット通信にも弱点はある。最も大きいのは,PHSに比べてかなり通信速度が遅いことだ。例えば,DoPaは9600bpsと28.8kbpsの2種類,PacketOneは14.4kbpsである。そのため,通信速度の高速化を図る動きも出てきた。PacketOneは高速オプション・サービス(月額600円)に加入すれば,au基地局からの下りで最大64kbpsの通信が可能である。NTTドコモも9月10日,2002年春にDoPa(9600bps,デュアルサービス)の下りを最大28.8kbpsに高速化すると発表した。

 ただし,同じデータ量を送ることを考えると,携帯電話やPHSは通信速度が向上すれば送信時間が短縮されて利用料金は低下するが,パケット通信はパケット従量制なので下がらない。

 ここにFOMAが登場してきたことで,高速なパケット通信と64kbpsのデータ通信が選択肢に加わった。企業での利用を考えると,高速性とパケット従量制というメリットを兼ね備え,かつ従来よりも料金が安いパケット通信が魅力的にうつる。

FOMAで既存システムのコストが下がる

 高速性が強調されるFOMAだが,企業システムの観点からは,コスト削減効果にまず注目すべきである。既存のモバイル・システムをそのまま移行させた場合のパケット料金をDoPaと比較してみよう。NTTドコモによれば,2001年7月のDoPa(28.8kbps)の利用者一人当たりの平均パケット数は約1100パケット/1日である *2。企業利用を想定し,1カ月に20日間使うとすると,2万2000パケット分の料金がかかる。

 DoPa(28.8kbps,パケット通信専用のシングルサービス)の場合,「ミドルプランS」を使うのが最も安く,月額5000円(10万パケット分の料金を含む)になる。一方のFOMAは,基本料金に当たる「データ専用プラン22」(2200円)にパケット量に応じたパケットパックを組み合わせるという料金体系である。2万2000パケットの料金は,「パケットパック20」の月額2000円(2万パケット分の料金を含む)に200円(2000パケット×0.1円/パケット)を合わせた2200円となり,基本料金と合わせて4400円に抑えられる。

 だが,ここで注意しておきたいことがある。

 それは,いくらパケットの単価が安くなったといっても,パケットの量が増えれば料金はかさんでしまうということだ。これは当然のことだが,FOMAでは通信速度の速さ故に,コンテンツに画像を貼るなど,多くのパケットを送ってしまいがちだ。

 FOMA試験サービスの結果を見ると,その用途は不明だがモニター利用者が1日に送った平均パケット数は約3600パケット,法人利用に限ると約4300パケットとDoPa(28.8kbps)利用者の4倍近くにまで跳ね上がる。ちなみに先の例で1カ月に10万パケット送った場合は,DoPa(28.8kbps)が5000円,FOMAが「パケットパック40」を利用して7200円と,逆に割高になってしまう。

 確かにFOMAの通信速度をもってすれば,これまでは送ることが難しかった画像などが利用できるようになるといった期待は高まる。ただし,利用料金を考えると,大量のパケットをやり取りするためには,高速性に加えて定額制のサービスが望ましい。

 パケット通信の定額制サービスは既にある。例えば,DDIポケットが8月に開始した「AirH" つなぎ放題コース」は,月額5800円でパケットの量に制限は無い。現状の通信速度は32kbpsのため,一度に大量のデータを送る際は苦しいかもしれないが,少量のデータを頻繁に送るようなケースには向いているだろう。

 このように,パケット量を安易に増やさなければ,FOMAは企業モバイル・システムの一選択肢となり得る。FOMAは10月以後,東京を皮切りに徐々にサービス・エリアを拡大していく。将来的にはPHSのエリアを上回る予定であり,計画が順調に進めば,本命の地位さえ十分に狙えるだろう。

(森山 徹=日経オープンシステム副編集長 兼 編集委員) 
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*1 日経マーケット・アクセスが2001年4月に実施した「企業情報システムのモニター調査」より。
*2 NTTドコモが2001年9月に公表した「FOMAの本格サービス開始について」より。