「インターネットは韓国が先進国,日本より進んでいる」。最近になって,ときどき耳にする主張である。でも,これは正しくない。一面の真理しか言い表していない。

 それを証明する出来事が先日あった。韓国ネット企業の日本オフィス設置に関する記者会見の席上のことである。日本の大新聞の記者が発した「インターネット先進国の韓国がなぜ日本と組むのか」という質問に対し,KIPA(韓国ソフトウエア振興院)のイー・ダンヒョン院長は,そうした見方を真っ向から否定したのだ。

 確かに韓国ではブロードバンドのインフラが家庭にまで浸透している。ブロードバンド接続の世帯普及率は50%に迫る。しかし,「だからといってインターネットで日本よりも進んでいると考えるのは早計」とイー院長は主張する。

 彼の頭にあるのは,iモードやEZwebで世界をリードする日本のモバイル・インターネット。この面で日本は,韓国(あるいは世界)を大きく引き離している。

 同氏はこう語る。「韓国のブロードバンドと日本のモバイル・インターネットが手を組めば最強のコンビが出来上がる。新たなビジネスの道がきっと開けるはずだ」と。KIPAが東京・霞が関に開設した韓国のITベンチャー支援のオフィスは,その橋頭保になるはずだ。

インターネット・カフェから火がついた韓国のブロードバンド

 では,なぜ韓国でブロードバンドの普及が進んだのだろうか。ここで,韓国のインターネット事情を正しく理解するために,ブロードバンドのインフラが整った経緯の一部を紹介しておこう。

 韓国のインターネット・ブームは,PC房(ピーシーバンと読む)という,いわゆるインターネット・カフェから始まった。PC房は,ADSLのような広帯域のアクセス回線をいち早く導入し,多くの若者を引きつけた。若者にとってPC房が魅力的だったのは,高い電話代(韓国も日本と同様に高かった)を使わずインターネットを楽しめる点だ。

 PC房に若者を呼び寄せたキラー・コンテンツはゲーム。韓国では,日本と違ってプレイステーションやNintendo 64,ドリームキャストといった家庭用ゲーム機がさほど普及しなかった。その結果,幸か不幸か若者たちはインターネットでゲームに興じることになった。

 ある企業は,PC房に集まった若者を見てビジネスチャンスを嗅ぎ取った。「家庭にADSL」というビジネスが成立するに違いないと考えたわけだ。これがズバリ当たり,韓国家庭でのADSLの利用が急速に進んだ。

最強タッグで世界に雄飛?

 いま,韓国でブロードバンド・ネットワークの世帯普及率は44%に達する(情報通信部政策局調べ)。確かに,ブロードバンドでは韓国が世界の先頭グループを走る。だからといって,「インターネットは韓国が先進国,日本より進んでいる。インターネット先進国の韓国が日本から学ぶものはない」と卑下するのはいかがなものか。

 仕事柄,アジア諸国の情報に接する機会の多い筆者は,世界をリードするモバイル・インターネットにもっと胸を張るべきだと考える。必要以上に萎縮することはないのだ(ただし油断は禁物。韓国だけではなく,世界は日本が成功した理由を徹底的に分析している)。

 サッカーのワールドカップは日本と韓国の共催となった。インターネットでも,日本と韓国の“最強タッグ”が世界を舞台に暴れまわる,というのも悪くない話だろう。読者の皆さんは,いかがお考えだろうか。

(津田 建二=Nikkei Electronics Asiaチーフ・テクニカル・エディター)