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記者の眼

「反乱」起こす技術者,中村修二氏の提訴がダメ押し

田野倉保雄 2001/09/07 ITpro

 2001年8月23日,元・日亜化学工業の技術者で現University of California Santa Barbara校(UCSB)教授の中村修二氏が,日亜化学を東京地方裁判所に訴えたことをマスコミが一斉に伝えた。同氏が日亜化学在籍中に取得した青色発光ダイオード(LED)に関する基本特許に対して,20億円を支払うことなどを請求した訴訟である。

 中村氏は日亜化学からUCSBに転職して1年足らずの2000年秋に,日亜化学から企業機密漏洩で訴えられた。日亜化学の競合メーカとなる米Cree,Inc.の子会社の非常勤研究員に就任したからだ。これを機に,日亜化学を逆に提訴することを考え始めたという。2001年春には同氏が提訴することは業界でも半ば公知となり,「いつ行動に移すのか」に焦点が集まっていた。

特許法で守られる技術者の権利

 中村氏のように,自分がかつて在籍していた会社を相手取り,特許に関する訴訟を起こした例は今回が初めてではない。技術者は,特許法第35条によって保障されている発明者の権利を行使できる。「取得した特許権は従業員である発明者に属し,その特許権を使用者(企業)に譲渡すれば,従業員は『相当の対価』を受け取ることができる」のである。

 一方,企業はこの特許法を遵守すべく,特許を取得した技術者に対して補償金を支払う特許報酬制度を数十年前から運用している。補償金は時代とともに段階的に引き上げられてきた。たとえば,現在では特許の申請時に1万円,登録時に1万円といった補償金が技術者に支払われる。これに加えて,特許を自社製品に適用したり他社にライセンス供与したりすることで,多大な利益を企業にもたらした“強い”特許の発明者に「ご褒美」として数十万円~数百万円が贈与される。

 ただし,現行制度の下で実際に多くの技術者が手にするのは,申請時と登録時にもらえる合計数万円のみ。登録後に数十万円~数百万円を手にできるのは,ごく一部の技術者に限られる。こうした待遇に疑問を抱く技術者が,ついには多額の補償金を求めて自分が勤めていた会社を訴える例は,1980年ころからあるにはあった。だが,技術者はおろか,訴えられる側の会社の多くも,対岸の火事としてこの問題を軽視していた。「従業員が補償金を要求して,会社を訴えるのは例外中の例外。ウチではありえない」と,いわば事故扱いだった。

 しかし,ここにきて風向きが変わった。1995年に元・オリンパス光学工業の技術者,1998年に元・日立製作所の技術者が,それぞれ古巣を提訴したことがキッカケである。有名企業に所属していた技術者たちが起こした行動だけに,多くの企業の知的財産部や法務部の担当者が注目するようになる。

 この2件の訴訟は,いまなお継続中である。オリンパス光学工業の場合,1999年4月に東京地方裁判所,2001年5月に東京高等裁判所がそれぞれ判決を下したが,これを不服とする原告,被告ともに最高裁判所に上告中だ。日立製作所の件も,東京地裁で裁判が進行している段階である。両訴訟とも進行中の裁判ゆえ,技術者にも知られるようになり,皆が身近な問題としてとらえ始めていた。

中村氏の主張に共感する技術者

 こうした技術者の反乱にダメを押したのが,今回の中村氏による提訴である。

 「実現は21世紀」といわれていた高輝度青色LED。その開発をほぼ独力で成し遂げた中村氏。同氏が取得したLEDに関する数々の特許は材料や構造に関する基本的なものだけに,威力は絶大だ。この特許を侵害することなくGaN系青色LEDを製造するのは難しいといわれている。これほど特許はだれでも取得できるわけではなく,ともすれば中村氏による訴訟を例外と片付けてしまいがちである。

 だが,技術者の多くは中村氏の提訴について,オリンパス光学工業や日立製作所の元技術者などによるこれまでの提訴に比べて身近に感じている。それは中村氏の人柄による。

 これまで中村氏は,日本の技術者に向かって刺激的な言葉で訴えてきた。「日本の技術者は冷遇されている。この状況を変えるには,皆さんが会社を辞めるしかない。多くの技術者がどんどん辞めていけば,会社も考えるだろう」。技術者が技術者に投げかける言葉だけに,説得力がある。実際,中村氏は今回の提訴に関して「目的はカネではない。日本の技術者を取り巻く環境をなんとかして改善したい,との気持ちから提訴に踏み切った」と,技術者代表との立場を強調する。

 中村氏の行動は,技術者や企業にいくつもの問題を投げかけている。特許はだれのものなのか,その価値をどのように見積もるべきなのか,そして優れた発明をした技術者に企業はどこまで報いるべきなのか・・・。

 企業はいつの日か,こういった問題が噴出することを覚悟していたはずだ。社内の特許報酬制度の整備と運用を少しずつ進めてきたものの,これまでは真剣に議論することを先送りにしてきた感がある。この重たい課題と,正面から対峙するときがいよいよ来たといえよう。

(田野倉 保雄=日経エレクトロニクス編集委員)

■中村氏の提訴に関しては,『日経エレクトロニクス』2001年9月10日号で詳しく解説しています。興味のある方はご一読いただければ幸いです。

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