ADSL(非対称ディジタル加入者線)インターネットの料金引き下げ競争が激しくなっている。キッカケは,よく知られているようにヤフーが2001年6月に行った発表。最大伝送速度8Mビット/秒で月額2280円(モデム買い取りの場合)のサービスを始めることを明らかにしたものだ。

 これに端を発する形で,7月にはソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)がアッカ・ネットワークスのADSL回線を使った「So-net ADSL」の新サービスを月額2980円(最大伝送速度1.5Mbpsの場合,モデムは買い取り制)で提供すると発表するなど,ADSLインターネットの料金が以前の月額5000円前後から,月額3000円前後へと一気に低下し始めた。

 こうした料金引き下げ競争は,ユーザーにとっては歓迎すべきことといえるだろう。一方で,競合となるケーブルテレビ(CATV)インターネット事業者などは,「料金引き下げなどを行うにしても,やみくもに料金を下げては自らの首を絞めかねない」と苦悩を深めている。二つの面で窮地に立たされることになった。

 第一は,「通信サービスの料金設定に,これまでとは違う基準が持ち込まれた。電気通信事業の経営という観点ではなく,株式市場をにらんだ動きだ」という側面。確かに,先手を打ったヤフーなどは上場企業であり,追随したSCNにしても2001年6月に,ソニーの子会社連動株(トラッキング・ストック)の形で株式公開を行った。SCNの関係者も今回の事業展開について,「自社株の15%弱がすでに市場に出回っており,株主に納得してもらえるような“成長戦略”を打ち出す狙いがあった」と打ち明ける。

 ところがCATV事業者などがこうした低料金を武器にした“成長戦略”を打ち出そうとしても,上場していなければ「株価の上昇」という果実は期待できない。また上場を目指そうにも,市場環境は厳しく当面は上場を実現できそうにない。

 さらにCATV事業者は,「月額2000円台などという料金設定は採算性の面で厳しいはず。米国の場合と同様に,ADSL事業者のとう汰が進んだあとで,残った事業者が値上げに動くことになるのではないか。現在の料金設定が続くかどうかは分からない」(CATV関係者)と先行きに懐疑的になっている。ここで生じるのが,「料金変更のやりやすさ」という第二の問題だ。

 CATVインターネットの場合,CATV事業者が自らの通信設備(CATV網)を使ってサービスを提供する第一種電気通信事業者として事業を手がけることが多い。一方,ヤフーやSCNなどの場合は,通信設備をほかの事業者から借りてサービスを提供する第二種電気通信事業者として事業を展開している。

 現行の電気通信事業法の事業区分のなかでは,料金変更は一種・二種のいずれもが届け出制になるが,一種事業者に対しては総務省の「事後チェック」がかかる。料金を値上げする場合に算出根拠などを合理的に説明できなければ,総務省は一種事業者に対して料金変更命令を出すことができる。つまり,そう簡単には値上げできない仕組みになっているといえる。

 インターネットを巡る「競争時代」にCATV事業者が置かれた現状をみると,少なくとも「設備に着目して規制を変える」という一種・二種の事業区分を残した制度自体が時代遅れになったようにも思えてくる。

(渡辺 博則=日経ニューメディア副編集長)