米Microsoftは,2002年に予定していたWindows XPの後継版である「Blackcomb(開発コード名)」の開発が遅れているため,中継ぎ的に「Longhorn(開発コード名)」を出すことを決めたようだ(「Windows XPの後継OS「Blackcomb」を2003年以降に延期,中継ぎ版を2002年にも投入へ」)。それぞれの出荷開始時期は,Longhornが2002年末から2003年初頭,Blackcombが2003年か2004年とのこと。

 そもそも,Windows 2000の後継版である「Windows XP」がまだ出荷されておらず,そのサーバー版の出荷時期のメドも立っていない段階で,さらにその次に出るBlackcombが「次々期版から,次々々期版になりました」といわれても,ユーザーとしては「はぁ?」とか「だからどうした!」という反応しかできない。

 ただ,この発表をマイクロソフトの皮算用と笑って済ますわけにはいかない。同社が推進しようとしている企業向けのライセンス割引制度の改定と重ね合わせると,なんとも腹立たしい構図が浮かび上がってくるからだ。

 マイクロソフトは,同社製品を新規に大量導入する企業向けに,割安に購入できるボリューム・ライセンス・プログラムをいくつか用意している。このうち,Open LicenseとSelectという2種類のボリューム・ライセンス・プログラムに関して,それぞれに5種類ずつあるバージョンアップのライセンス方式を,「ソフトウエア・アシュアランス」と呼ぶ新しい方式に統合する予定だ。

 ソフトウエア・アシュアランスのメリットは,契約期間中に購入済みソフトの新版が発売されると,契約追加費用なしで自由にアップグレードできるというものだ。複雑なアップグレードの割引制度が簡便化するのと同時に,企業にとっては年間の予算を立てやすいという利点もある。

 ところが問題点もある。契約期間中にバージョンアップが行われない場合,割高になってしまうことだ。特に,バージョンアップの間隔が3年を超えると,購入コストは22~70%アップしてしまう。マイクロソフトがソフトウエア・アシュアランスを始める時期は2001年10月1日から。これは,まさにWindows XPの発売開始を狙ったタイミングである。

 もう一度,Blackcombの出荷開始時期の遅れを思い出してもらいたい。当初2002年だったのが,2003年または2004年になったということは,2001年10月末にWindows XPを購入したユーザーにとって3年以上先になる可能性が出てくるということだ。マイクロソフトは大量導入する企業ユーザーに対し,ソフトウエア・アシュアランスを勧めているが,これではしょっぱなから企業ユーザーに損をさせてしまうことになる。そこで中継ぎであるLonghornが登場するという筋書きだ。

 はたして「Longhornのおかげで,割引期間中にバージョンアップが行われて良かった」と企業ユーザーは思うだろうか---否。

 本来はBlackcombとしてソフトウエア・アシュアランスの契約期間内に出荷されるはずだったものが,機能強化を見送られたまま(当初のスペックからみれば未完成のまま)BlackcombのサブセットのようなLonghornを買わされるだけだと気付くだろう。2年後にまたBlackcombが出るのにだ。その期間,割安と信じてソフトウエア・アシュアランスの契約料を払い続けることになる。これでは,中国のことわざにある「朝三暮四」ではないか。

 この話を私の友人に披露すると,「マイクロソフトはこれまで,空間(シェア)を人質に取った商売をしていたが,これからは時間を人質に取った商売をしようとしているのさ」と覚めた反応だった。うーん。Back to the Blackcomb!

(木下 篤芳=日経Windows 2000副編集長)

◎関連記事
Windows XPの後継OS「Blackcomb」を2003年以降に延期,中継ぎ版を2002年にも投入へ
これも米Microsoftの市場支配力のなせるワザ?
【TechWeb特約】プライバシ保護に疑義,プライバシ保護団体がWindows XPの発売延期をFTCに要請
「Windows XPが特許を侵害」,米InterTrustが米MSとの係争をヒートアップ
米MSがWindows XP向けにUSB 2.0のベータ版ドライバをリリース
MS,Windows XPの不正コピー防止機能を簡素化
マイクロソフト,Windows XPがJava VMを標準搭載しないのは「Sunとの和解内容を速やかに履行するため」
Windows XPを“UPnP”対応に,米マイクロソフトが機能追加