ついに我が家も“ブロードバンド時代”に突入した。先日,某業者と契約しADSLを導入したのである。導入したとはいっても,高価な機器を購入したわけでなければ,家中の壁を引っぱがして電話線を“未来のファイバー”に張り替えたわけでもない。買ったのは,パソコンに差し込んだLANボードとLANケーブルのみ。ADSLモデム/スプリッタはレンタルである。

 使い勝手は非常にいい。現在私が編集部で利用している専用線+LANと,ほぼ同じか,場合によっては速いくらいの体感スピードである。正直言って,「これだけでブロードバンドになってしまうとは・・・」と少々拍子抜けした。だって,使っているのは相も変わらぬあの電話線なのだ。こんな手があるなら,NTTは早くやってくれれば良かったのに,とも思った。

 私のような技術音痴でも簡単に導入できるのなら,ひょっとするとADSLの普及はかなりの速度で進むかもしれない。

 ところでブロードバンド時代になれば,電子商店でのビジネスのやり方にも影響が出るだろう。これまで画像や動画のデータの質を落とさざるを得なかったが,今度は逆に様々な工夫を凝らせるようになる。Webサイトだろうがカタログだろうが,モノを多く売るには画像や動画などを使って,美しいプロモーションをした方がいいに決まっている。

 既に動き出した企業もある。大手パソコン・メーカーのNECと富士通は,Webサイトの新製品の販促ページに3次元コンピュータ・グラフィックス(3次元CG)を採用した。「マウスで本体の角度を変える」「CD/DVD-ROMドライブやノート・パソコンの開閉動作を見る」「モニターを自由に選んで本体と合わせる」などが可能になった。静止画とテキストでは伝えられなかった細かい情報も,3次元CGならば伝えられる可能性が大きい,というわけだ。

 パソコン・メーカー以外では,富士重工業がカー・アクセサリ用品のサイト「スバルカスタマイズワールド」(http://accessory.subaru.co.jp/)で,スポイラーやアルミ・ホイールなどのカー・アクセサリを選択し,車に装備した状態を3次元で表示できるようにした。伊勢丹でも,ゆかた販売コーナーで3次元表示を用いて商品の紹介をしている。

 海外でも動きはある。米国では,「オーグメンテッド・リアリティー(AR=Augmented Reality)」という言葉が注目を集めている。直訳すると“増大されたリアリティ”で,バーチャル・リアリティをさらに現実に近づけた機能と解釈できる。

 例えば,米マイ・バーチャルモデル社が開発した「マイ・バーチャルモデル」というサービスがある。利用者が身長や体重,肌や髪の色などのデータを入力すると,自分の体型をCG化したバーチャルモデルが登場し,商品を“試着”してくれる。

 欧州では,デンマークのフェーズワン社が開発した「LightPhase」という装置が注目されている。プロの写真家が使用する銀塩(アナログ)カメラを,デジタル・カメラに変える周辺機器である。通常のデジタル・カメラは最上位機種でも600万~700万画素程度だが,LightPhaseを銀塩カメラに取り付けると1600万画素のデジタル・カメラに変身する。

 今後ブロードバンド化が進み,容量の大きいコンテンツの掲載が可能になれば,美しい画像へのニーズが増えると見越したわけだ。LightPhaseは,スウェーデンのカメラ・メーカーであるハッセルブラッド社や,日本のカメラ・メーカーであるマミヤオーピーや京セラの製品などに対応している。

 こうした動きを見るにつけ,既に多くの企業がブロードバンド時代を前提として動き始めていることを感じる。個人的にも,ADSLを導入したとたんにネットで買い物をする回数が増えた。書籍やCD,DVDはもちろん,スーツやお中元などなど・・・。

 まだリッチ・コンテンツの恩恵は受けていないものの,既にブロードバンド効果が出ている。さくさくページが切り替わるので,注文書を手書きしてファクスというパターンより早くて便利と心底思えることと,通信料金が定額制なのでじっくりと商品説明が読める,この2点が大きい。これで公私ともに,ECサイトの動向に注目できるというものだ。

(本間 康裕=日経ネットビジネス副編集長)