前回このコラム(「ブロードバンド時代にLモード? 」)で,固定電話インターネット接続サービスの「Lモード」はブロードバンド時代に逆行する存在だと書いた。読者の方からは,「反対」「応援」さまざまな声をいただいた。しかし,文中で指摘した重要な観点が,必ずしもきっちりと御理解いただけていないように思えたので,再度このテーマを取り上げたい。

 筆者がいろいろと問題を指摘したなかでもっとも重要なことは,このサービスが回線を1本占有する点だ。Lモードを使っているあいだは電話を掛けられないし,かかってもこないのだ。

 家族に急病人が発生したと想像してほしい。近くの救急病院も検索したいし,職場のお父さんにも連絡を取りたい,でもお父さんは客先に出かけて不在,コールバックを待たなければならないなどというときに,この仕組みは機能しない。もっと危険なのは災害時だ。火事,洪水,地震などのときに慌ててLモードを使い,電話回線を占有してしまうと,電話網の破綻(輻輳)につながる。

 「緊急時にはできるだけ利用をお控え下さい」と注意書きを書かなければならないような情報端末に意味があるのだろうか?

NTTはISDN拡販に必死

 あきれ返ることに,最近我が家にNTT東日本から,「インターネット接続に便利だからISDNにしませんか?」という勧誘がしきりに来るようになった。郵便ポストにパンフレットが投げ込まれたり,電話代の計算書にDMが同封されていたり・・・。勧誘の電話担当者に「Lモードを使っているあいだは電話が使えない」ことを質問すると,「そういう場合にもISDNなら大丈夫ですよ」との答えが返ってきた。

 ああ,そうだったのか,ISDN回線をとにかく使ってもらいたいのがホンネなのだ。「Lモードはそのための戦略商品?」とは思いたくないが,根底でこの二つはつながる。

 膨大な投資をして構築したISDN設備のコスト回収ができないままADSLに移行されてはならじと頑張るのは十分に理解できるが,インターネットを楽しみたいユーザーに低速で高価なISDN回線をじゅうたん爆撃のように勧誘しているのは,やはり時代に逆行している。

 私の老母のところにも同じ勧誘が来た。危うく2倍近い料金を払うようになるところだったのを寸前でおさえたが,もしISDN化されてしまえば,ADSL化は再度アナログに戻す必要があるので先延ばしとなる。こうして全国的にADSL化が阻害されていると考えるのは,うがち過ぎだろうか。

 いまこそ,負の遺産はすっぱり切り捨て,国民一人ひとりが本当に満足できるネットワーク時代を演出していってほしいと願わずにはいられない。

(林 伸夫=パソコン局主席編集委員)