筆者は,一部上場企業のCIOの方々とメーリングリストを用いて電子会議を行っている。そのなかで「情報システム部門のSEたちはパソコンの技術に興味を持たないばかりか,軽く見ている。例えばExcelを基幹システムの構築に使えば,劇的にコストダウンと開発期間の短縮化が可能なのにそれをしようとしない。かつての技術にしがみついている」という問題提起があり,しばし,この問題で議論が白熱した。

 Excelとは,もちろんマイクロソフトの表計算ソフト。機能拡張がどんどんなされた結果,ほとんどの情報処理をこなすことができる「万能」ともいえるツールに変貌を遂げている。現在の基幹システムはクライアント-サーバー型が主流で,サーバー上のデータベースへのアクセスは言うに及ばず,外部データベースへのアクセス機能も不可欠だが,Excelは当然のことながら対応可能である。

 もとより,分析やグラフ作成などは得意技なので,「データ集計」「分析」「結果表示」に関しては,かなり高度な処理でもこなすことができる。オンライン・バンキングのような負荷の重いトラフィック処理,あるいは膨大なデータを高速にバッチ処理するようなアプリケーションに適用するのには少々無理があるが,通常の基幹システムの開発に使うにはほとんど支障がないレベルに進化している。

 本格的な業務処理システムを開発するのにはExcelのマクロ言語を駆使することが必要だが,現在はExcel用の開発支援ツールが各種販売されている。ホームページ開発ツールのように,全くマクロ言語を使わずにすむ開発支援ツールもある。導入に際しての敷居はけっして高くない。

 こうしたツールやExcelを使った結果,COBOLやC言語,Visual Basicなどを使う場合と比べて開発コストを数分の1からそれ以上に削減できた例が出ているという。

 外資系金融機関のゴールドマンサックス証券の東京支店では基幹システムとデータ連携する現場の業務システムの一部をエクセルおよびエクセル開発支援ツールで構築している。

 景気の低迷が続くなかで,日本企業はIT活用を進めて競争力を強化する必要に迫られている。開発しなければならない新規の情報システムが,次から次と出てきているのが現状だ。それに伴って既存システムも再構築が必要となっており,開発コスト削減は至上命題なはずだ。

 技術的な視点で見れば他の選択肢が良いという言い分はあるかもしれない。しかし今の状況でSEに求められるのは,システム開発を経営的な視点で見つめて劇的なコスト削減を図ることなのだ。食わず嫌いをせず,Excelをはじめとするパソコンの技術を,従来の汎用機やUNIXの技術と同等に高めることが,21世紀に生き抜くSEに必要なことではないだろうか。

(上村 孝樹=コンピュータ局主席編集委員)