最近,用語が妙に気になる。年齢(とし)をとったせいか。

 最も気になるのが「401K」の説明に使っている用語だ。「確定拠出型年金」というのが定訳である。政府の発表文はもちろん,経済新聞も,一般紙も,テレビ放送までもが「確定拠出」と言っている。

 引っかかるのは。「確定」だ。聞いていると,なんだか安心できる年金のように思える。しかし,「確定」しているのは年金のために企業が拠出する経費のこと。受給者が受け取る年金の金額は運用によって不確定になり,リスクを伴うことになる。受給者にとっては「不確定給付型年金」である。

 政府や経済新聞が企業の年金担当者に,「年金のための拠出が確定します」とお知らせするには「確定拠出」は適訳だが,受給者がほとんどである一般紙の読者やテレビの視聴者には「不確定給付型」とするのが適訳である。だれに向かってメッセージを送っているのかによって,用語(説明語)は変えるべきではないか。それでは混乱を招く,あるいは受給者に不安を与えすぎるというのであれば,せめて「変動給付型」とでも統一するのが妥当だと筆者は考える。

 これと同じような気になる用語が,IT(情報技術)分野にもある。以前に,議論を呼んだこともある。

 一つは「エンド・ユーザー」だ。情報システム部門側からすれば,ホスト・コンピュータから最も遠い「末端ユーザー」ということで「エンド」になる。しかし,ユーザー主導の立場からは,「フロント・ユーザー」とか「パイロット・ユーザー」と呼ぶべきではないか,という提起がなされた。この提起は正しかったと思うが,なかなか用語は改まらない。

 これと同様のことが「ラスト・ワンマイル」という用語にもある。メートル法の日本で「ワンマイル」もどうかと思うが,それにしても「ラスト」は通信事業者サイドに立ちすぎてはいないか。通信事業者の交換機や通信装置からみての“ラスト”である。しかし利用者側からみれば,世界に広がるネットワークに入るための最初の10mなり,100m,500mではないか。「ファースト」を使うべきという議論だ。

 最近の「企業ポータル」も,よく考えると少々違和感がある。米国では「コーポレート・ポータル」「エンタープライズ・インフォメーション・ポータル(EIP)」と表現しているので,まさしく「企業ポータル」だが,その目的はビジネスパーソンが生産性を高めるために,一人一人のビジネス・スタイルやミッションに応じて,個人別の情報ポータルを作る,というところにある。これは「マイ・ポータル」と呼んだほうが実態に近いのではないか。

 情報システム部門にとっては,そうした個人別ポータルを企業側が準備するのだから,企業ポータルと宣伝したいところだが,どうも「エンド・ユーザー」「ラスト・ワンマイル」同様に,情報システム部門中心の臭いを感じる。

 システムやネットワークが利用現場に近づくには,用語にもっと注意を払う必要があるのではないか。

(中島 洋=日経BP社編集委員)