「次は,このWebサイトのなかで,この商品を探してみてください」。

 「はい。うーん。ここで調べるのかな? あれ,クリックできない。これか。うーん,このページじゃないみたいですね。あれっ,どうやって元に戻るんだ?」

 インターネットを始めてまだ1カ月のこの男性は,なかなか言われた情報にアクセスできないようだ。インターネット講習会で最終テストを受けている,といった場面だろうか。ところが,その男性を,隣の部屋からマジック・ミラー越しにじっと見つめている集団がいる。スーツを着たビジネスマンやデザイナ風の女性など10人近くの人たちだ。インターネット講習会のテストとはどうも違うようだが・・・。

 実はこれ,Webの「ユーザビリティ・テスト」の実施風景。Webサイトの使いやすさを,その実際のターゲット・ユーザーに試してもらうためものである。テストを受けているのはその男性ではなく,Webサイトの方なのだ。

 このユーザビリティ・テストは,Webサイトの使い勝手を向上させるのに非常に有効なもの。「トップ・ページはパッと見て,すぐに分かるように」「Webページはできるだけ軽く,グラフィックスは多用しない」といった“鉄則”は分かっていても,それだけでは使いやすいサイトは作れない。

 作り手の思い込みだけで作っても,エンド・ユーザーは狙い通りに使ってくれないからだ。ユーザーが使いにくいサイトはどうなるか。ユーザーは途中で別のサイトに移動してしまう。ECサイトなら,それは顧客を失うことに直結するのである。こうしたことが起こらないように使い勝手を向上させるのが,ユーザビリティ・テストである。

 実際にユーザビリティ・テストを実施したECサイトの運営者はこう証言する。「こちらが便利だと思って用意した機能がまったく使われなくて,ショックだった」。

 例えば,Webサイトの好みのページに1回の操作でアクセスできる「プルダウン・メニュー」。これは,すべてのページの右上に用意していたが,このサイトのメイン・ターゲットである20代~30代の女性数名に試してもらうと,誰もその存在に気づかなかった。

 プルダウン・メニューは,特にパソコンに不慣れなユーザーに対して,敷居が高かったのだ。結局,このWebサイトはプルダウン・メニューをやめて,アイコンを並べた簡単なナビゲーション・リンクに変更した。

 「そうは言っても,ユーザビリティの向上に豊富な予算はつけられない」というサイト運営者は多いだろう。しかし最近になって,こうしたユーザビリティ・テストを請け負う事業者は増えてきており,料金も安価になってきた。

 ヒューマンインタフェース,イードといった専門事業者がサービスしているほか,インタービジョン・レーザーフィッシュやネットイヤーグループといった,いわゆるSIPS(戦略的インターネット専門サービス)と呼ばれる事業者が,Webサイト構築サービスのメニューとして,ユーザビリティ・テストのサービスを用意している。料金は事業者によっては異なるが,100万円を切るところもある。Webサイトに本格的に投資する企業にとっては,それほど高い金額ではないだろう。

 このようなユーザビリティ・テストは,実は家電製品やパソコン用ソフトウエアなどの開発では,すでに定着しているものである。エンド・ユーザーが実際に手に触れるものという意味では,Webサイトも同じ。あなたのWebサイトでも,ユーザビリティ・テストを試してみる価値は十分にある。

(安東 一真=日経インターネット テクノロジー)