デジタルBS放送用受信機の販売不振が続いている。電子情報技術産業協会(JEITA)の調査によると,2001年4月の出荷台数(外付けチューナーとチューナー内蔵テレビの合計)は3月実績を約56%下回る2万4000台となり,過去最低を記録した。5月の出荷台数もNHKによると約2万台にとどまり,最低記録を更新した模様だ。

 同じ時期のデジタルCS放送「SKY PerfecTV!」の状況をみると,総加入者数は4月に約4万3200件増え,5月も約2万8000件の増加となった。NHKとWOWOWのチャンネル以外はすべて無料放送のデジタルBS放送が,有料放送中心のSKY PerfecTV!にかなわないという深刻な状況である。このままでは,デジタルBS放送関係者が目標にしている「放送開始後1000日で1000万世帯への普及」が,夢物語に終わるのは確実だ。

 こんな事態になってしまった理由は,(1)受信機の価格が高いこと,(2)放送されている番組が面白くないこと----という2点に尽きる。現在,デジタルBS放送用受信機の店頭価格は8万円~10万円である。いくらHDTV(ハイビジョン)放送を見ることができて,様々な双方向サービスが利用できるとは言っても,SKY PerfecTV!用受信機が3万~4万円程度で販売されていることを考えると,10万円の水準ではそんなに売れるはずがない。さらに,高い受信機を買ってまでも見たいと思う番組がほとんどない。

 こうした二つの理由は,「ニワトリと卵」の関係でもある。「受信機が高いから,視聴者が増えない。視聴者が増えないから放送局は番組制作に思い切って資金を投入できず,面白い番組を作れない。番組が面白くないから,受信機が売れない」という悪循環に陥っている。

 そうは言っても,何もしなければ状況は改善しない。デジタルBS放送放送局や受信機メーカーは,6月になって対策に本腰を入れ始めた。例えば,NHKとフジテレビジョン系のBSフジ,東京放送(TBS)系のビーエス・アイ(BS-i)の3社は,各社の看板番組を持ち寄った合同番組を2001年6月30日に放送する。受信機の双方向機能を活用した視聴者参加型のクイズ番組である。

 また,デジタル放送でテレビ放送を行う8社(NHKやWOWOW,民放キー局系5社など)は夏のボーナス商戦に合わせて,共同キャンペーンを2001年6月中旬から8月に行う。10数億円の資金を投入して新聞や雑誌,テレビなどに,デジタルBS放送の番組内容を紹介する広告を集中的に出稿するほか,家電量販店での受信機の販売促進活動を支援する。

 デジタルBS放送関係者はこれらの対策によって,低迷する受信機販売をてこ入れしたい考えだ。しかし,こうした“対症療法”では受信機販売が急速に改善するとは思えない。病気の原因を取り除く抜本的な治療が必要だ。具体的には,受信機の価格をできるだけ早く大幅に下げることである。

 実際にソニーは,スペックを下げた廉価版のデジタルBS放送用受信機の発売を検討している(詳細は日経ニューメディア2001年6月18日号参照)。受信したハイビジョン映像をSDTV(標準画質テレビ)のレベルに下げたり,受信機に搭載しているメモリの容量を減らすといった方法が考えられる。

 こうしたソニーの構想に対して,ほかのメーカーやデジタルBS放送局には否定的な声がある。「廉価版の受信機が出ると,現行の受信機が売れなくなる」「高画質と双方向サービスというデジタルBS放送の売り物がなくなる」「同じ軌道位置の衛星を使って提供される東経110度CS放送の普及にも悪影響を及ぼす」----といった意見である。

 廉価版受信機の発売が難しいのならば,現行の受信機価格を大幅に安くしたらどうか。先に述べた「ニワトリと卵の悪循環」を断ち切るには,とにかく受信機を売ることである。もちろん現行の受信機を安く売れば,メーカーは赤字になる。それでは,メーカーの赤字の一部を,デジタルBS放送局が負担することはできないのか。民放キー局5社は2001年3月期の決算で,軒並み増収増益を達成したはずだ。自らが関与するデジタルBS放送普及のための営業費と考えれば,「一切負担できない」ということはないだろう。

 このまま受信機の販売不振が続くと,民放キー局系のデジタルBS放送局にCMを出稿していたスポンサーが離れてしまう恐れがある。2~3年で資本金を食いつぶし,事業の継続が難しくなることも考えられる。受信料で成り立っているNHKができることには限界がある。小泉内閣が主張する「痛みを伴う構造改革」ではないが,デジタルBS放送を本気で普及させようと思うのなら,放送局も痛みを我慢する必要があるのではないか。

(高田 隆=日経ニューメディア編集長)