インターネットに接続しながらも,半分クローズドな高速ネットワーク内を作って,その中でさまざまなサービスを提供する。そんな形のインターネットの「分網化」が始まっている。例えばADSL業者が持つファイバ網をセミクローズド化し,その網内でビデオ・ストリーム配信サービスと,ASPサービスを提供するという動きがある。

 ADSLに代表されるブロードバンド接続サービスの事業者はバックボーンとしてダーク・ファイバなどの光ファイバ網を持っている。

 普通家庭でADSL接続を利用する場合は,電話線経由で電話局に接続し,そこからADSL接続業者の網を通って,さらにISPの網に接続,そこからインターネットに接続する。インターネットから先がどのくらいのパフォーマンス(接続速度)で利用できるかは分からない。それに電話線の質によっても接続速度は変わってしまう。インターネットの向こう側(少なくとも自分が利用しているADSLやISPとは直接接続していないところ)にあるサーバーを利用する場合,どのくらいの速度で接続できるかは,インターネットの「雲」の中だ。

 しかしADSL業者の網に直結する形で,ストリーム配信サーバーやASP用のサーバーを接続すれば,ADSL業者と直接契約しているユーザーからは,かなり高速にアクセスできる。ある業者によれば「インターネットが間に入らないことで,1Mビット/秒以上の速度が期待でき,ビデオも非常にスムースに見られるようになる」という。

 さらに,インターネットにまったく接続しない形で,ADSL業者の網を利用するコンテンツ配信サービスも始まる。2001年2月中旬にシスコシステムズと共同でビデオ配信のデモを行ったスターディーエスエル(スターDSL)のシステムでは,家庭に受信用のセットトップボックス(STB)を置き,ADSL業者の網を使ってビデオ・ストリームを配信する。家庭のSTBにはテレビやモニターしかつなげないようになっている。このサービスの肝は,著作権管理が楽になること。「データがサーバー,ネットワーク,STBのどこからも取り出せないということで,著作権にうるさいハリウッドも納得しやすい」(スターDSL)のだそうだ。

 ADSL業者の側にとっても,こうしたクローズドな(言い方を変えればプライベートな)網にファイバを使ってもらうことにはあまり抵抗はない。それどころか,一括して大量の固定契約が取れる可能性があり,経営を安定させる上でもかなりおいしいのだという。

 そもそもADSL業者が使っているのはNTTなどが使い切れないダーク・ファイバである。現在でも利用されているのはまだ1割に過ぎない,という話もある。米国の研究機関を中心に第2のインターネットを作ろうという話もあったが,案外日本のほうが簡単に作れてしまうのかもしれない。

(齋藤 淳=日経インターネット テクノロジー)