地域の新しいネットワーク・インフラとして,無線LANの可能性がしきりに論じられるようになってきた。IEEE802.11bの標準規格が固まり,製品が手軽に入手できるようになったのが原因だろう。

 企業内で配線不要のネット・インフラとして評価されつつあるのをはじめ,コーヒーショップ・チェーンや航空会社が顧客への新サービスの一環として利用し始めている。そして,さらに本命と目される動きが起こりつつある。主役は「地域」だ。その大きな可能性に注目しておく必要がある。

 最近では,「ドット・イレブン」と呼び習わすようだが,IEEE802.11bの人気は大変なものである。この無線ネットワークに必要とされる機器の価格が急速に低下していることが,その人気に拍車をかけている。

 「基地局アンテナ」が電気街では3万円を切るようになり,パソコン側に装着する専用PCカードも,1枚で1万円を下回るようになった。8000円で販売されていた,という「目撃談」もある。基地局というと大げさだが,タバコの箱を少し大型にした程度のコンパクトなものである。

 これで,11Mビット/秒の無線LANが構成される。筆者が所属する慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスには,基地局がすでに120カ所以上もあるそうだ(学生調べ)。ゼミなどで学生がある地域に密集すると,一つの基地局に対する使用台数が許容範囲を上回って利用できない事態も生じるが,通常は極めて快適なネットワーク環境である。さらに802.11aが実用化されれば,無線LANの速度は5倍以上になる。

 さてこの無線LANが,学校のキャンパスなどだけでなく,住宅街,繁華街などの地域に敷設されるとどうなるだろうか。

 こうした興味深い状況が,今後起こりうるのだ。CATV会社や通信会社,電力会社,鉄道会社,自治体などが,高速の光ファイバ・サービスを利用して街角に無線LANの基地局を置き,道行く人に利用できるようにする。インターネット電話(VoIP)で電話もかけられるようにする。

 高速で移動する自動車などでは利用できないかもしれないが,歩行者程度の速度なら十分に対応できるだろう。もちろん,この無線LANシステムを隣近所10軒で共用すれば,通信料金は1/10で済むようになるかもしれない。通信インフラがこれまで以上に,空気のようにどこにでも浸透することになる。

 固定通信や移動通信の会社は,さらにサービスの質を向上させ,多様な機能を付加しなければビシネスが成立しなくなるのではないか。恐ろしい技術革新のパワーである。

(中島 洋=日経BP社編集委員 兼 慶應義塾大学教授)