「知らない人から不要なメールが送られてくる」--。場合によっては不快なものさえあり,料金まで負担しなければならない。確かに理不尽な話である。こういった迷惑メールが急増しており,それが社会問題となり,政府まで問題視している。

 これを受けて,NTTドコモは5月25日,iモードの迷惑メール対策を打ち出した。そのなかで,メールの受信料金の工夫する(たとえば定額制や割引などの導入)としている。ただ,拙速な対応には注意してほしい。たとえ,メールの受信料を無料にしても意味がない。むしろ,迷惑メールを助長する。

 携帯メールもインターネット・メールの仲間であり,iモードだけ特殊な形にすると料金面で整合性が取れなくなる恐れがある。iモードをISP(インターネット・サービス・プロバイダ)に開放するという予定もある。ユーザーの声や総務省の指導に流された対応は避けてほしい。

 通信料金やインターネット接続料金は,簡単にいえばネットワーク設備の使用料である。ネットワークを利用した分,ユーザーが支払うべき料金である。受信(着信)側もネットワーク設備を利用しており,利便性を享受している場合も多い。受信側もいくらかの料金を負担してもよいという理屈も成り立つ。ただ,日本国内では,携帯電話も含めて電話は発信者がその料金を負担することが常識になっている。

 NTTドコモ・ユーザーとKDDI(au)ユーザー間など,異なる事業者間の通話でも,発信側からだけ料金を徴収する。発信者側の事業者が徴収した料金の一部を,受信側の事業者に振り分けている。ところが,メールの場合は,さまざまなネットワークがつながっているため,発信者からだけ料金を徴収して,受信側の事業者に料金の一部を振り分けるという方法は採りにくい。このため,受信者からも料金を徴収しているというのが現在の料金体系であり,これまでユーザーに受け入れられてきた。

 ところが,iモードをはじめとする携帯メール・ユーザーが増えるに従い,迷惑メールが急激に増加し,ユーザーの不満の声が高まってきた。「見ず知らずの相手からの不要なメールを受信するために,どうして料金を払わなければならないのか」。

 迷惑メールは,前からある問題である。以前からの有線のインターネットの世界では,“大量に送られてくる不要なメール”をスパム・メールと呼び,米国ではこれを防止するための法律が成立している。従来のインターネット・メールでも,スパム・メールを受信するためにユーザーが料金を負担している。ただ,有線の場合,課金単位が1分間や3分間といった一定の時間であり,定額制サービスを利用するユーザーも増えているため,スパム・メールによる受信料金増加が見えにくい。

 携帯メールの場合,文字数(データ量)課金であるため,たとえ1通数円にしろ,迷惑メールによる“迷惑料金”が一目瞭然である。ユーザー数が多いため,迷惑メールの数も急増している。携帯メール・ユーザーが不満に思うのは当然である。

結局はユーザーが負担

 だからといって,受信料金を引き下げろ,というのには疑問がある。メール受信料を引き下げても,それは見かけだけに過ぎない。迷惑メールだろうが,ユーザーがメールを受信するには,ネットワーク設備を使う。迷惑メールが増えれば,ネットワークを増強しなければならない。事業者は,その費用を手当てする必要がある。

 結局,ユーザーから徴収する基本料金や送信料などに組み込まれる。料金の名目が変わるだけである。値上げはしないだろうが,その分値下げのマイナス材料となる。

 それに,受信料金の見直しは,2003年春にNTTドコモが予定しているiモードのISPなどに開放する際の接続料金に影響する。ISPがiモード・ユーザーを対象にしたメール・サービスを提供する際に,ドコモに対して接続料金を支払う必要がある。ドコモが,コスト構造とかけ離れた受信料金を設定すると,ISPに対する接続料金の設定が難しくなる。また,今回のNTTドコモが見直し後に提示する受信料金が,ISPがiモード・ユーザーに示す料金の基準となる。もし,ドコモが巨額な利益を背景に“メール受信は無料”とでも設定したら,ISPのサービス参入が難しくなる。

 ユーザーなどが迷惑メールに対する不満の矛先を事業者に向けたくなる気持ちはわかる。しかし,インターネットはさまざまな事業者(ネットワーク)の集合体であり,だからこそ,いろいろなネットワークのユーザーとメールをやりとりできるという利便性が得られる。そのため,メール受信料を含めて,それぞれの事業者でネットワーク利用料を徴収する方法を採らざるを得ない。

 こういったことを,事業者や総務省はユーザーにわかりやすく説明すべきであり,ユーザーもそれを理解してほしい。メール受信料金の見直しは,うわべだけの解決策であり,迷惑メールに対する問題意識を薄れさせるだけである。むしろ,迷惑メールを助長することにさえなる。問題は,いうまでもなく,迷惑メールを送ることである。

(小松原 健=日経インターネット テクノロジー)