5月29日に,新しいIT雑誌「日経IT21」(ホームページはhttp://it21.nikkeibp.co.jp/)を創刊し,全国書店で発売する。中堅・中小企業のIT化を支援する実用情報誌というコンセプトだ。雑誌を作るに当たり,数多くの中堅・中小企業の方からいろいろな意見を聞いた。

 先日も,名古屋商工会議所の若手経営者の異業種交流会に招かれ,「経営に役立つIT化」というテーマで講演した。その後で自由に意見交換した際,IT化に関する本音が次々に飛び出した。具体的な悩みでは,「IT化したくても社内に分かる人がいない」「どこから手をつければよいか,どこに相談すればよいのか分からない」という声が多かった。

 集まった経営者に共通するのは,「IT化しないと乗り遅れるのではないか」という強い危機感を抱いているということだ。ここへきて,米シスコシステムズなどIT革命の象徴だった米国IT企業の業績低迷もあって,IT革命は幻想にすぎないという論調も出ている。確かに一時の熱狂的なITブームは去ったが,「長期的にはIT革命が生産性を高めることは明らかであり,ITを経営や仕事に生かさないと今は安泰でもいずれ市場で淘汰されてしまう」と,意識の高い中小企業の経営者たちは本気で心配している。

 人の問題については,確かにこれまでだと,ITに精通したスタッフがいないとIT化は難しかった。導入はもちろんだが,それ以上に運用管理のところでつまずいてしまう。

 1週間ほど前に取材した京都の建材会社では,社長自らがコンピュータに興味を持ちIT化の旗振り役となり,サーバーの管理までこなしていた。社員は23人の規模だが,グループウエアを導入し,社内連絡にメールや掲示板を使い,営業日報も共有している。さらに,基幹のオフコン・システムとWebサーバーを連携させ,取引先がWebブラウザから在庫確認や発注処理ができるようにしていた。ここまでできている会社は大企業でも少ないだろう。

 この会社もそうだが,中堅・中小企業でIT化が進んでいるところは,社長が2代目で年が若く,パソコンやインターネットにも詳しく,IT化推進についても強い意志を持ってリーダーシップを発揮しているケースが多い。昨年末に取材した北海道の会社(建設資材の販社,社員は40人強)の社長は,筆者が以前担当していた日経Windows 2000の愛読者だった。そのWindows NTに関する豊富な知識には舌を巻いたものだ。

 しかし状況は変わりつつある。ITに精通したスタッフがいなくてもIT化は十分可能になってきた。特にASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)の登場は大きい。ASPを使えば,財務会計や販売管理,人事・給与,グループウエア,EC(電子商取引)といったアプリケーションを,インターネットに接続できるパソコンさえあれば利用できる。通信速度やサービスの品質保証など課題は残るが,サーバーの管理者を置けない中小企業にとっては朗報だ。加えて,ASPはシステムを抱えなくてもよいため,初期費用も減らせる。

 もう一つ期待したいのは,経済産業省(経産省)がまもなく認定を開始する「ITコーディネータ」である。ITコーディネータ制度は通産省(現・経産省)などが1999年5月に,中小企業のIT化支援を目的とするITSSP(戦略的情報化投資活性化プロジェクト)の分科会として検討を始めた人材育成策。

 ITコーディネータの役割は,「ITに不慣れな中小企業の経営者層とITの専門用語に陥りがちな情報技術者とを橋渡しし,経営に効果のある情報システムを短期間に適正な価格で作り上げること」という。今後は中小企業診断士の情報部門を廃止し,ITコーディネータに一本化していく。資格取得が自己目的化して実効性が伴わないのではないかといった指摘もあるが,資格ができること自体大きな進歩といえる。

 「どこから手をつけ,どう進めればよいか」といった情報不足の問題も少しずつ解消されてきた。ITSSPのサイト(http://www.itssp.gr.jp/)もそうだが,ITベンダーも専門サイトを作るなど,中堅・中小企業市場の開拓に本腰を入れ始めた。日経BP社でも「SmallBiz」と呼ぶ専門サイトを立ち上げる(5月29日オープン)。ここへきて書籍も,「中小企業のためのIT攻略讀本」「小さな会社のIT活用法」「だから中小企業のIT化は失敗する」「小さな会社のIT導入マニュアル」など,中小企業のIT化をテーマにしたものが相次いで出版されている。

 そしていよいよ雑誌も出る。日経IT21だけでなく,同じ5月29日に,メディアセレクト社からやはり中堅・中小企業のIT化を支援する「ITセレクト」が創刊される。Windows NT専門誌もそうだったが,競合誌があった方がその市場に活気が出る。切磋琢磨(せっさたくま)しながらより良い誌面を作り,これから本格化しそうな中堅・中小企業のIT化を支援できればと考えている。

 ITの専門家が多いIT Proの会員の皆様には直接読者になっていただけないかもしれないが,ぜひご紹介いただければ幸いだ。

(桔梗原 富夫=日経IT21編集長)