パソコンが生まれてもう25年になろうとしているのに,大事な場面でパソコンが使われていないのにあきれることがある。

 例えば,記者会見場。記者発表の場所でパソコンにメモを取る姿はまだ稀だ。確かにモバイル・パソコンの発表会などでは,さすがにパソコンを広げる記者が多い。しかし,行政報告などの会見ではパソコンを広げるのがはばかられる雰囲気だ。パソコンは普及したとは言うものの,本当に威力を発揮できそうな場面では,まだまだ認知されていないのが実情だ。

 もし,会見内容を直接パソコンに向かってメモれば,会見が終った10分後にはロビーからケータイのデータ通信カードを経由してその要旨を配信できる。それが紙のメモなら,いったん会社のデスクに戻り,打ち込み直すという手順が必要になる。

 業務連絡,打ち合わせなどでも,その場でパソコンにメモし,打ちあわせ後に確認用としてそのメモを電子メールで回覧すれば,本当に意味のある議事録として生かすことができる。「そんなことは分かっているよ」と,このサイトをご覧になっている方からお叱りを受けそうだ。でも,こういう旗を振っておかないと,日本のIT革命は絶対に成功しないとの危機感を強く感じているから,あえて書かせていただくことにした。

 5月17日午前11時現在,衆議院ホームページ(http://www.shugiin.go.jp)の衆議院本会議議事録には5月7日午後1時から行われた小泉純一郎首相の所信表明演説がようやく載っているだけだ。地方自治体のホームページに至っては全く議事録が載っていないか,平成12年の過去の記録がかろうじて載っているのがほとんどだ。裁判所の判例,省庁の公示も,まずは紙で記録し,その後おもむろにデジタル文書化される。

 一方,米上院(http://www.senate.gov/),下院(http://www.house.gov/)の法案投票結果,議事録(http://thomas.loc.gov/にあるCONGRESSIONAL RECORDのMost Recent Issue)は昨日のものまで余さず掲載されている。記録,文書作成はまずコンピューターに向かって行い,データベース化するという発想とワークフローが定着しているからこそできることである。その後は思いのままの情報発信ができる。

 「ドキュメントはまず最初からデジタルにする」という発想が,常識として私たち全員のライフスタイルとして浸透していかなければ,「IT革命」など絵に描いた餅に終ってしまうだろう。

 「ユビキタス・ネットワーク社会」が待ち遠しい私としては,その前に「ユビキタス・デジタル・ドキュメント社会」を形成していかなければならないと強く思う。特にデジタル文書化が遅れている日本では・・・。

(林 伸夫=パソコン局主席編集委員)