ゴールデンウィーク期間中,自宅近くでピッキング被害が相次いで起こった。いずれも被害状況や手口が似ており,同一人物(またはグループ)の犯行だとみられている。

 被害に遭った隣人に話を聞くと,「2~3日家を空けて帰宅したら,玄関の鍵が開けっ放しになっていた。ただ一見したところでは,部屋を物色された形跡はなく,ピッキングかどうかはすぐに判断できなかった。念のために調べてみると,現金や貴金属,バッグなど盗まれており,被害に遭ったことが判明した」のだという。また時間とともに,万年筆や陶器類などにも被害が及んでいたことが分かった。

 警察によると,東京都南部で活動していた窃盗団が,取り締まり強化の影響で筆者の家の近辺に北上してきているのだという。

 そこで,筆者も自宅の防犯体制を真剣に考えることにした。「玄関の鍵を何に替えるのか」から始め,「窓から侵入された場合はどうするのか」「家を長期間空ける場合はどのような対策を講じればよいのか」「数時間の外出時の対策は」などを検討した。インターネットを使って,さまざまな防犯グッズやシステムを検索・閲覧し,これまでのピッキング事例や防犯に対する心構えなどを読み漁った。せっかくのゴールデンウィークを,ピッキング対策に費やしたのだ。

 調べてみて,非常に多種多様の防犯グッズが製品化されていることに驚いた。暗証番号を押すことで外部から開閉できるドア・チェーン,窓用のストッパ,赤外線で侵入者を検知してアラームを発する警報装置,ピッキングの震動を検知する警報装置,電話を使って外部から侵入者を威嚇できるスピーカ,ニセの監視カメラや鍵穴,などなど。防犯グッズを数多く取り揃えている販売店に出向き,さまざまな製品を眺めているだけで,時間はすぐに過ぎていく。

 こうなると,もはや趣味の世界である。「長期間不在にする場合はこれとこれを組み合われば有効だ」「窓を割られて鍵を開けられても簡単に開かないように細工しよう」「費用対効果を考えればこのグッズだ」。

 帰宅しても,販売店の担当者に聞いたピッキングされやすい鍵と強い鍵の構造の違いを,妻に講釈する始末である。この時点で,筆者を動かす力は「対策しなければ」という強迫観念ではなく,「自分の手でピッキングに強い対策を作り上げるんだ」という意気込みに変わっていた。どちらかと言えば,ラジオやパソコンを自作する際の感覚に近い。その甲斐あって,我が家のピッキングに対する強度は確実に上がったと思う。

遊び心はセキュリティ担当者を救えるか

 翻って,企業のセキュリティ対策はどうなのだろうか。仕事上,セキュリティ担当者やセキュリティ・コンサルタントに話を聞く機会は多い。現在のところ,セキュリティ担当者の多くは,セキュリティ対策によって喜びや達成感を味わうというよりも,強迫観念にかられている面が強いと思える。というよりも,日々発信される膨大なセキュリティ関連の情報に辟易しているのではないだろうか。

 当然,情報セキュリティ対策とピッキング対策を単純に比較して,議論することはできない。偽の鍵穴や防犯カメラに相当するニセのファイアウォールや侵入検知ツールを使って,セキュリティ対策の効果をあげることは難しいだろう。企業ネットワークは家の構造ほど単純ではない。単機能の機器(ハードウエア)の組み合わせだけで守ることは難しい。そもそも,セキュリティ・ホールを抱えている企業システムは,抜け穴のある家と同じだ。防犯グッズを買い揃えても意味はない。

 しかし,重要だとわかっていながら,セキュリティ対策がなかなか前に進まない企業は多い。セキュリティ対策には,日々の情報収集などの地道な努力が必要なのはわかっている。ただ場合によっては,防犯グッズを買い揃えるのに似た楽しみを与えてくれる機器やサービスも意味を持つのではないだろうか。

 にぎわう防犯グッズ売り場を見たときに筆者が感じた「企業のセキュリティ対策にも“遊び心”が必要だな」という考えも,国内全体のセキュリティ・レベルを押し上げ,維持していく一助になるように思えて仕方ない。

(藤田 憲治=日経バイト副編集長兼編集委員)