大型TFT液晶ディスプレイ・モジュールの生産で韓国サムスン電子が独走している。かつては日本からの技術移転と巨額の設備投資を基に,力ずくで成功したかのように言われた。しかし着実に技術力を身につけて,いまや名実ともに世界のトップに立っている。

 同社を評価するときに,どうしても資金力ばかりに目を奪われがちだが,それ以上に評価すべきはマーケティング力である。サムスン電子の場合は,市場を読む力と,自社に有利なように市場を動かす力を兼ね備えているように思える。

ノート・パソコンで14.1インチ型を率先して推進

 大型TFT液晶の主たる応用機器はノート・パソコンと液晶モニターである。二つをあわせると台数ベースで9割以上を占める。これらの分野の画面サイズがどうなるかで,液晶メーカーの事業は大きく左右される。

 液晶ディスプレイは,マザー・ガラスと呼ばれる大型のガラス基板を加工処理して,最終的にノート・パソコンなどの画面に合わせた寸法に分断する。現在稼動している液晶生産ラインで最も大きなマザー・ガラス寸法はサムスン電子を除き680mm×880mmである。これは13.3インチ型が9面,15インチ型は6面取れるが,14.1インチ型でも6面である。一方,サムスン電子の最新ラインは730mm×920mmだから14.1インチ型が9面,17インチ型なら6面取れる。ただし,13.3インチ型,15インチ型では680mm×880mmと同じ数しか取得できない。

 サムスン電子が14.1インチ型を増やし始めたのは1999年第2四半期ごろからである。当時はノート・パソコンで14.1インチ型が伸びる傾向はあったが,13.3インチ型がまだ主流だった。むしろ携帯性を重視する用途では,画面サイズの小さい12.1インチ型以下も人気があった。

 結果としては,ノート型の場合は画面を並べて比較されやすい点や,米国のように自動車で移動する場合は重さや大きさはあまり関係しない点などから,ノート・パソコンの大画面化は進んだ。いまや14.1インチ型はノート・パソコンの半分近くを占め,そのうちサムスン電子は30%近いシェアを持つ。

デスクトップ向けでは台湾と組んで17インチ型へ

 そして現在,デスクトップ向け液晶モニターでサムスン電子が普及させようとしているのが17インチ型である。17インチ型というサイズは,液晶モニターとしては一般的ではない。通常は15インチ型クラスの上は18インチ型である。そこに17インチ型を提案してきた。

 サムスン電子自身も当面15インチ型がボリューム・ゾーンであることは認めている。ただ,15インチ型は各社が参入しているだけに競争が激しい。しかも同じ韓国のLG.Philips LCD社がトップを走っている。そこでシェア競争をすれば価格だけの争いになることは必然である。それより17インチ型という新しい市場を開拓した方が利益は大きい。ただその場合は1社だけではパソコン・メーカーも採用しにくい。そこで台湾の液晶メーカーも17インチ型の仲間に加える作戦に出ている。

 かつては液晶大国とまで言われた日本勢が大型TFT液晶分野で後退していったのは,単に資本力の差だけではなく,こうしたマーケティング力の差が大きいように思える。

 そうした日本メーカーが大型TFT液晶分野で巻き返しを狙うのが20インチ型以上の大型液晶テレビである。技術力はもちろんブランド力で韓国メーカーに対し差異化できると考えている。確かに,テレビが液晶になれば台数としては大きいが,現状では思ったようには成功していない。

 今,日本メーカーに求められるのは,過去の成功体験にとらわれずに現状をよく把握することと,それに基づいて市場を有利に動かしていくことだろう。市場を見ているだけではノート・パソコンなどの二の舞にならないという保証はない。

(中村 健=日経マーケット・アクセス編集委員)