CATVインターネットを自宅に入れたのは,1999年夏なのでもう2年近く経つ。その間,いったい何に使っているか。利用頻度が高いのは,圧倒的に明日の天気予報と今日のプロ野球の二つだ。

 一時期なんでもインターネットで済ませようとして,インターネット・ラジオや音楽配信などにも挑戦してみたが,気持ちのうえでどこか無理をしていたようだ。落ち着いたのが,結局この二つになったというのが正直なところ。後に続くのは,オンラインの書籍通販,百科事典や地図の参照など。ただし,利用頻度は低い。

 ブロードバンド社会がやってくると,夢のような世界が開ける気がしていた。でも本質的なところはもっと“ダラダラ”したところにあるのではないか。

 ここに1冊の本がある。宮崎礼子・伊藤セツ編著「家庭管理論」(有斐閣新書)。家政学の本だ。

 このなかに,東京多摩ニュータウンに在住する雇用労働者夫婦が,平日にどのような時間の使い方をしているか,といった統計が載っている(1985年の統計)。統計を取ったのが1985年と16年も前なので,参考にならないという人がいるかもしれない。しかし経済的なレベルは現在と同じで,しかもインターネットが普及する前の家庭生活を知るにはちょうど良い。

 統計の中身をちょっと紹介しよう。共働き夫婦の場合,睡眠や食事など「生理的生活時間」に約10時間が必要だ。通勤時間も含めた「収入労働時間」は,夫が約11時間30分,妻が約8時間30分。調理や掃除など「家事的生活時間」は夫が約30分,妻が3時間30分。夫も妻もこれらの時間の合計が約22時間になる。

 つまり,1日24時間から生きるために必要な22時間を引いた残り約2時間が,新聞を読み,テレビを楽しみ,家族との団欒を過ごすための「社会的・文化的生活時間」になる。ちなみにこのうち新聞は約15分,テレビ・ラジオは約30分とある。

 では,これにインターネット利用時間を当てはめるとどうなるか。それは「社会的・文化的生活時間」の“2時間”のなかでしかない。だからほとんどの人は,1日2時間以上インターネットを使うようなサービスに加入しても仕方がない。2時間以上利用しようとすると,あなたは夜更かし・寝不足に陥ることになる。

 ブロードバンドの利点は,高速通信と常時接続にある。少なくとも常時接続に関しては,私はちょっとネガティブな考えを持っている。つなぎっぱなしにして,何に使うかということだ。

 かつて1970年代~80年代のFM放送は,エアー・チェックをするマニアのリスナーに支えられていた。FM雑誌の役どころも,放送する曲目を詳細に載せた番組表にあった。ところが最近のFM放送は,生放送にシフトし,音楽を流しっぱなし,リスナーも音楽を聞き流しているだけだ。

 1980年代にテレビの深夜番組がまだマイナーな存在だったころ,あるテレビ・プロデューサは「深夜番組のライバルは漫画だ」と語った。確かに80年代から90年代にかけて,テレビの深夜番組の視聴率が高まり,のべ放送時間も伸びていった。ところが,現在は深夜番組と漫画にケイタイが絡んで三つ巴の戦いになっているはずだ。

 「モシモシ,いま何してる?」。携帯電話が普及して,いったい何を話しているのだろう。そして,深夜のテレビ番組で何を放送しているだろう。

 ブロードバンド社会が開く生活というのは,生産性向上とかコストダウンとかではなくて,単なる“ダラダラした生活”があるだけではないだろうか。

(木下 篤芳=日経Windows 2000副編集長)