総務省が手がける電気通信事業法などの改正法案が自民党との折衝などを経て,ようやく今通常国会で可決される見通しとなった。NTTグループへの“過剰規制”を懸念する自民党の一部からの反発などによって一時は成立も危ぶまれたが,NTTドコモへの規制を弱めるなどの対応をして法改正のメドを付けた。

 改正法案には,NTT東西地域会社やNTTドコモなどを対象にした支配的事業者(ドミナント)規制の概念などを盛り込んで,国内の通信事業の競争環境を整備する狙いがある。

 しかし,「競合関係にあるNTTグループと新電電など,関係者すべての要望を満たす法律を作ることは理論的に不可能だ。その中間点で決着を付けようとすれば,だれもが何らかの不満を持ったものになる」(業界関係者)のは確かだ。

 業界内には,改正法案に対する不満がくすぶっている。本質的な問題としては,「一般的な規制緩和の流れのなかで,新たに『卸電気通信役務』を規定するなど,今回の改正法案はかえって複雑で分かりにくいものになっている」との批判が強い。

 「電気通信事業における第一種(自ら設備を設置してサービスを提供)と第二種(設備を借りてサービスを提供)の事業区分を残すなど,抜本的な改正になっていない」ことなどに,業界関係者は不満を募らせている。一種・二種の事業区分については経済界も,「事業者の回線調達の自由度を制約し,ユーザー・ニーズへの即応,グローバルな競争への対応,創意工夫などを阻害している」(経済団体連合会)などとして,以前から強く撤廃を求めていた。

 こうしたなかで今回の法改正作業を横目に,その先のステップとなる新法を検討するための布石が打たれ始めた。

 まず,政府が2001年3月末に決定したIT国家戦略を実現するための「e-Japan重点計画」では,「公正な競争を促進するための施策によっても十分な競争の進展が見られない場合には,(中略)速やかに電気通信にかかる制度,NTTのあり方などの抜本的な見直しを行う」とされた。さらに先の政府・与党の緊急経済対策でも,「IT分野における徹底した規制改革を推進する」とした。

 そのうえで今回の電気通信事業法など改正法案には,「政府は(中略),通信と放送にかかる事業の区分を含む電気通信に関する制度のあり方について総合的に検討を加え,その結果に基づいて法制の整備そのほかの必要な措置を講じる」などとする条文(附則第6条)が盛り込まれた。これらはいずれも,電気通信事業法などに代わる新法の検討を促すものといえる。

 ただし,今のところ新法の制定時期などは明確になっていない。焦点は,制定の動きがいつ具体化するかである。

 政治の世界に詳しい業界関係者は,「結局,結論を出すのは政治家だ。次の首相に誰がなるのか。それによって新法制定の時期もみえてくる」という。そのうえで,「次の選挙を控えて,自民党にもNTTグループを守るばかりでなく,より一層の規制緩和,構造改革を前面に出さなければ選挙に勝てないという思いが強くなった。“改革派”の首相が誕生すれば,新法制定が一気に動き出す可能性がある」と指摘する。

 業界関係者は今回の法改正の行方を眺めながら,「次の首相に誰がなるか」に注目し始めた。場合によっては来年の次期通常国会での新法制定も,あり得ない話ではなくなるのだ。

(渡辺 博則=日経ニューメディア副編集長)