無線技術の発達と導入は,このところ急ピッチで進んでいる。その台風の目になりそうなのが,「ドット・イレブン」,つまりIEEE802.11bあるいはIEEE802.11aと呼ばれる無線LANである。

 規格の標準化から実用化の段階に入って,その奥深い可能性が明らかになってきた。もしかすると「ドット・イレブン革命」とでも呼べる大きな変化をもたらすかもしれない。

 筆者の所属する大学の研究室にも,IEEE802.11bの無線LANが昨年(2000年)から設置されている。PCカードを使ってインターネットに高速にアクセスできるのだが,これが実に快適である。利用している2.4GHz帯は免許が不要で,無料で使える周波数帯である。データ伝送速度は最大で11Mビット/秒。何人かが同時にアクセスしても,それほど気にならない。

 もちろん,(1)ケーブルが不要なので研究室のなかの配線がきれいになる,(2)パソコンを自由に持ち歩いてLANにアクセスできる---といったメリットも大きい。しかし,筆者が強調したいのは,もっと大きなインパクトがあるということだ。つまり,大学のなかや企業のオフィスだけではなく,街のなかなどのパブリック・スペースで利用されるようになれば,インターネットへのアクセスが大きく変わることを予感させる。

 最も期待しているのが,コーヒーショップやコンビニエンス・ストアで無線LANが使えるようになること。すでに米国では,スターバックスなどで採用の動きが始まっているし,シンガポールでは空港で利用できるという。日本でも,ファストフード店やコーヒーショップが天井にタバコの箱ほどの基地局を設置して,来店した客にインターネット・アクセス環境を無料で提供するのも,そう遠い話ではなかろう。

 もちろんそれには,無線LANの先をインターネットにつなぐ光ファイバなどの高速通信サービスが,低料金で提供されることが不可欠の要素である。無線LANが高速・安価な光ファイバに結びついて,初めてこうしたサービスが現実味を帯びてくる。

 低料金の高速通信サービスの問題は,そう遠くないうちに解決されそうだ。2000年末には,東西NTT地域会社が光通信サービス(光・IP通信網サービス)を開始した。また3月から東京では,有線ブロードネットワークスの光ファイバによるFTTHサービスがスタートしている。同社のサービスは,最大100Mビット/秒,月額約6000円という,従来にない高速・安価なものだ。いよいよ光ファイバの時代の幕が切って落とされた。

 さらに,36Mビット/秒の高速無線LAN(5.2GHz帯を使用)を使った実験が,東京・渋谷で3月末から始まったのも注目してよい。NTT東日本が100Mビット/秒の光ファイバと無線LANを結合して始めた「バイポータブル」と呼ぶブロードバンドの実験だ。コーヒーショップ,企業のオフィス,学校などを実験の対象にしているが,ここでどのような需要や使い方が発見されるか,「ドット・イレブン革命」の行方を占う意味で期待したい。

(中島 洋=日経BP社編集委員 兼 慶應義塾大学教授)