まもなく米国企業の2001年第1四半期(1-3月期)の決算が続々と発表される。これには「絶対注目」と言っておきたい。おそらくこの第1四半期の決算で,「ニューエコノミー型経営」の本当の実力があらわになってくるからだ。

 第1の指標企業は米Amazon.com。同社は,この1月末の2000年決算発表と同時に,事業所の閉鎖や従業員の大幅レイオフを明らかにして大きな動揺を見せた。しかもその直後に,投資銀行である米Lehman Brothersのアナリストから「財務管理上の致命的な欠陥」を指摘された。同リポートの主旨は,「Amazon.com社の運転資本(運転資金ではない)は,2001年後半にはマイナスに転じる。これは,Amazon社が仕入れその他で取引している企業への支払いを賄えるだけの資産を持てなくなることを意味する。それが信用不安につながると,同社の操業継続能力には大きな疑いが生じる」というものだった。

 このアナリストは,2000年6月以来,Amazon.com社の経営について繰り返し批判的なリポートを発表してきたが,今回はこれまでで,最も厳しく鋭い分析に基づいている。Amazon.com社の経営を分析するにあたって,同アナリストが持ち出した手法は,米国の企業監査で「1年以内に倒産する可能性が高い」場合に適用される基準だ。その基準には「SAS-59」という番号が振られている。米国の企業財務に詳しいプロが見たら,直観的に不穏な結論に気が付く。

 実際,ウォールストリートの投資銀行家のあるグループは,このリポートを点検し「分析されていることは90%正しい」という判断に至った。それを受けて,Amazon.com社に「問題を解決するための具体的な対策を答えて欲しい」との質問状を送りつけたが,いまのところ返事はないという。

 Amazon.com社の運転資本が2000年の4四半期を通じて,ずっと減少傾向にあるのは事実だ。それが年明け以降,どのような状態・傾向を示しているかは,第1四半期の決算発表の結果を計算すれば,誰にも明確に分かってしまう。もし,Lehman Brothers社のアナリストが予想した通りの推移を示すようならば・・・。噂されている米Wal-Mart Storesによる救済を実行してもらうのか。

 第2の注目企業は米Yahoo!である。同社も,景気後退を背景にした広告費削減に直撃され,この第1四半期にCEO(最高経営責任者)のすげ替えを発表した。

 現在は,quiet period(株式市場などに無用の動揺を与えないよう,経営者などの公式発言をほとんど封じなくてはいけない期間)で沈黙を守っている。しかし第1四半期明けには,新しいCEOの任命を含めて,新たな経営方針を打ち出さなければならない。同社が,広告収入だけに依存したビジネスモデルを転換するのは明らかだ。では,さらなる成長のためには,どんな仕掛けと作戦で臨むのか。あるいは,独立企業としてのYahoo!社が消滅するようなことまであるのか。

 そして第3に,米eBayや米priceline.comといった,「ネットブランド」として名をはせ2000年の淘汰の荒波をかろうじてかいくぐった企業だ。eBay社は,オークションを堅く守り,確実に利益を確保してきた企業だが,成長の限界に突き当たりつつある。priceline.com社は,2000年末に拡張路線を捨て,創業者をクビにして戦略転換を図った最初の結果が4月に出てくる。

 これらに加えて,米Microsoft,米Intel,米Cisco Systemsなどなど,米国のIT業界を代表する面々(注:企業によって必ずしも4月に第1四半期が終わるとは限らない)の業績推移を見れば,2001年の米国の「IT関連ビジネスシーン」はだいたい読める。ネットを使えば,あふれるほど情報を収集できるので,興味のある人はぜひ自分で試してみるとよい。

 ただし,「全体を俯瞰(ふかん)して分析する」という作業は決してやさしくないことを書き添えておく。筆者自身が身にしみて感じた経験があるからだ。

 通信社Reutersの記者が,97年から99年のアジア通貨危機をまとめた「ROLLERCOASTER」(ISBN:0273650092)という本がある。あらためて読むと,当時起こっていたことの凄まじさにゾッとするくらいの迫力があるのだが,実際に事態が進行していた最中には,少なくとも筆者はあまり緊迫感を持てなかった。情報の表面はよく眺めていたと思うが,「アジアの市場」に関する実感的下地が不足していたためだと思う。

 日常的に仕事でかかわっている米国についても,最近,愕然(がくぜん)とした。3週間ほど前に,4カ月ぶりにニューヨークに出張したが,2000年10月にはまだピンとこなかった米国の景気後退ぶりが,2001年3月は街角にまで明らかに表れていた。

 ビルの1階の空き室がかなり目立つようになり,郊外の住宅用不動産も売り物件がドッと増えていた。米国企業が,景気の様相の変化に気付いていっせいに経営を引き締めたのは,2000年第4四半期だった。その反応ぶりは,実に敏速というか激しいというか,とにかく1四半期のあいだに人を切りオフィスを閉めてしまったわけだ。

 実感的下地は,こういう光景や取材を通して身に染みる。それで,あらためて情報の見え方が変わってくるのだ。今年一年は,緊張感のある取材が続きそうだ。

(小口 日出彦=日経E-BIZ編集長)

※筆者の担当する日経E-BIZは,実感的下地を常に更新しながら,できる限り“本物感”の高い情報を提供している。先に述べたAmazon.com社の「致命的欠陥」については,3月号で詳細な特集を組んだ。Amazon.com本社の,投資家向け情報担当ディレクターにも独占インタビューし,「経営危機説」への理論的反論を引き出した。