米国製のネットワーク関連技術資格が相次いで日本に上陸している。ネットワーク関連の技術資格は従来,国家資格とベンダー資格だったが,最近日本に入ってきているのはいずれも「非ベンダー系の民間資格」である。

 これまで,国家資格とベンダー資格は直接的な関係を持たずに並存してきた。こうしたなかでの新たな民間資格の登場は,資格間の相互認証の可能性なども含めて,ネットワーク技術資格市場に“第3の波”ともいうべき動きを引き起こすことになるかもしれない。

 ネットワーク関連の技術資格に関する最近の主な動きを挙げると,以下のようになる。1月15日には,「CIW」(Certified Internet Webmaster)の日本における推進会社としてプロソフトトレーニング・ドットコム・ジャパンが設立された。さらに,通信分野に特化したNACSE(National Associationsof Communication Systems Engineers)の日本における普及推進機関であるナクシージャパンが2月21日にセミナーを開催し,機関設立をアピールした。

 これらに先行して専門学校のTACが,昨年秋から「Network+」というネットワーク・エンジニアのための技術資格のための試験と講座を日本語で始めている。このほか,LANケーブルなど情報配線システム関連の資格を認定するBICSI(Building Industry Consulting Service International)という教育機関の日本支部が4月に旗揚げを計画している。

 米国ではネットワーク関連のさまざまな民間資格があり,今後もネットワーク関連の技術資格が上陸してくる可能性がある。

 これまで,日本で一般に知られているネットワーク関連の技術資格というと,第1に経済産業省による情報処理技術者や総務省による電気通信主任技術者などの国家資格があり,第2にネットワーク機器/ソフトウエア・ベンダーが個別に実施している資格制度があった。これに対してCIW,NACSE,Network+などはいずれも「非ベンダー系民間資格」として分類することができる。

 国家資格については,中立的ということでそれなりに普及してきた。しかし,最近の技術進歩に十分対応していないなどの問題点が指摘され,現在,資格試験の内容やテストの方法などを含めて見直しが進められている。とはいえ,独占的な地位に君臨していたこともあり作業のスピードは遅く,改善策は緒についたばかりだ。

 これに対して米国製の民間資格の相次ぐ上陸は,非ベンダー系技術資格の市場が民間も含めた競争に移行し,国家資格見直しのスピードアップを促すことも十分考えられよう。

 このように国家資格と民間資格の競争というのは,技術資格制度を技術の進歩に対応させるといった観点,あるいは資格試験の受験者に受験しやすい環境を提供するなどの点でメリットがあると考えられる。しかし,一方ではさまざまな資格が乱立することで,資格取得希望者はどの資格を取れば良いのか迷ってしまうといった事態が予想される。技術者を雇用する企業側にとっても,技術者が持つさまざまな資格をどのように重み付けして評価すべきか戸惑うことも考えられる。

 この点に関する一つの改善策として考えられるのが各種の技術資格間の相互認証である。経済産業省は東南アジア地域における技術者の交流を促進するために,日本の情報処理技術者資格と東南アジア諸国における同様の技術者資格の相互認証に向けて各国に働きかけを進めており,すでにインドとの間で資格試験の相互認証について合意した。さらに,経済産業省は米国などで普及している民間資格についても,相互認証の可能性を探っているといわれる。

 非ベンダー系の民間資格の波が押し寄せる一方で,ベンダー系資格は個別のハードウエア,ソフトウエアに依存していることから,「特定のハードウエア,ソフトウエアに限定された技術資格」という制約がついて回る。

 このためベンダー資格取得者自身にとっては,対象となるハードウエア,ソフトウエアから離れたとたんに技術資格としての意味をなさなくなるという不満がある。ベンダー資格取得者としては,ベンダー資格も技術者としてのスキルを示すものとして認めてもらいたいという希望がある。

 ベンダー資格取得者側のこうした悩みにこたえられる仕組みとして,米国ではインターネット関連に焦点を当てて,ベンダー資格も取りこんだ技術資格体系めざす「i-Generation」というものが登場した。日本でも昨年,日本技術者連盟がi-Generation資格認定協議会を組織し,日本語化などの準備を進めてきた。しかし,この協議会はごく最近,活動を中断することを決めた。異なるベンダー資格を相乗りさせることが容易でないという問題もあるようだ。

 相互認証の動きは当面,非ベンダー系にとどまりそうだが,それでも相互認証によって異なる技術資格間の関係が示されるようになれば,IT・ネットワーク技術者が市場で流通することが容易になり,技術者不足の打開策としても大いに貢献するはずである。

 その意味で,ネットワーク関連の非ベンダー系民間技術資格という“第3の波”の波紋の広がりに注目したい。

(松本 庸史=教育事業センター長)