3月7日夜,自宅でADSLが利用できるようになった。今回は,申し込みからインストール/セットアップまでで感じた,ADSLサービスについて考えてみたい。なお今回は,“ファースト・インプレッション”ということで,導入時の報告が中心である。今後も経過を報告したいと考えている。
まず,現状を説明しておこう。ADSL事業者は,プロバイダへのADSLアクセス回線の卸売りビジネス展開をしている事業者(NTT地域会社ではない)。プロバイダは,以前から利用している老舗のプロバイダである。ADSLモデムと電話局のあいだは,サービスの上限値である下り1.5Mビット/秒,上り512kビット/秒のデータ伝送速度でつながっている。自宅は,NTT電話局から直線距離で千数百メートルのところにある。
なお,ADSLが開通するまでにちょっと苦労したのだが,それは後ほど説明することにする。
ADSLサービスを申し込むきっかけは,ADSL事業者の3月サービス提供開始エリアに自宅のある地域が含まれていたことと,私が利用しているプロバイダがその事業者のADSL回線を利用したサービスを始めていたことである。年明け早々にWebでサービスを申し込んだ。その後,3月に入ってすぐにモデムが届き,追って6日開通予定という通知がきた。そして,7日の夜に自分でセットアップして,利用可能になったわけである。
一番驚いたのは,3月開通予定となっていた通りに3月6日に利用可能になったこと。ISDNの定額サービスなどでは待たされる例が多いと聞いていたので,多少のことは覚悟していた。これは嬉しい誤算だった。
ADSL事業者から貸与されたADSLモデムは,簡易型のADSLであるG.lite対応のもの。ISDNとの干渉を防ぐ日本仕様(Annex C)を組み込んである。USB対応ではなくルーター・タイプを選択した。電話とADSLの帯域を分けるためのスプリッタが付属している。
インストール/セットアップは,いわゆる「ユーザー・インストール」。事業者のエンジニアが宅内の設置工事のために来ることはない。もちろん,来てもらうことも可能だが,今回は自分でやることにした。
壁のモジュラ・ジャックの口にスプリッタをつなぎ,スプリッタの表記に従ってモデムと電話をスプリッタにつなぐ。モデムのLANインタフェースとパソコンをLANケーブル(10BASE-Tのストレート・ケーブル)で接続する。準備はこれで完了。あとは,フロッピで届けられているHTMLベースのインストーラを画面に表示し,指示に従って操作するだけである。会社でのLAN接続の設定がパソコンに残っていて,それをクリアする必要があった(15分くらい悩んだ)が,それ以外はなんの問題もなくADSLがつながった。
なぜか「上り512k/下り64k」に...
ところが,Webページを表示させて画面の動きを見ても,64kビット/秒のPHSよりは速いものの期待したほどではない。モデムのモニター機能で回線速度を見ると,「上り512k/下り64k」になっている。下りが速いADSLにしては,あべこべな数字である。表示ソフトのバグにしてはあまりに初歩的だ。案の定,500Kバイトのソフトをダウンロードするのに1分以上もかかってしまった。
とりあえず,原因が分からないので,同一回線を使う電話などが使えるかどうかをチェックすることにした。実は,自宅はマンションで電話の口が2カ所にある。スプリッタはそのうち1カ所につないでいた。もう1カ所には,NTTではない電話会社の回線選択アダプタと電話がつないである。電話はそれぞれに1台ずつつないである。
ADSLを利用中でも,スプリッタにつないだ電話は利用可能だ。ただ,ノイズはけっこうあるような印象。スプリッタにつないでいない方の電話は,当然だがまったく使い物にならない。受話器を上げ下げすると,ADSL回線も切れてしまう。スプリッタ経由ではないから当然だろう。
電話だけでなく56kモデムでのダイヤルアップ(家族が利用することがあるため)も試してみた。ADSLを使っていない状態では,スプリッタ経由で56kモデムを利用可能だった。ただし,スプリッタをつないでいない方の電話線では,56kモデムでのダイヤルアップが不可能になった。スプリッタを外すと問題なく利用できる。
そこで,先ほどの不思議なデータ伝送速度の話に戻る。電話と56kモデムを試した結果から,自宅内に電話の口が複数あってそれぞれに違った機器がつながっているのが問題ではないかと考えた。電話会社の回線選択アダプタを外してからADSLを再接続したところ,スペック通りの「上り512k/下り1.5M」というデータ伝送速度が得られた。
先刻と同様に500Kバイトのソフトをダウンロードしたところ,13~14秒程度で完了した。実効スループットとしては300kビット/秒前後であるが,これはサーバー側の状態も関係していると思われる。Webブラウジングの速度は明らかに速くなった。かなり快適である。
結局,マンションのように1回線であっても複数のモジュラ・ジャックの口があるような場合に,それぞれにつながる機器が影響しあうのが速度低下の原因だったようだ。良く考えれば当たり前なのかもしれないが,迂闊(うかつ)にもはじめは気づかなかった。
しばらくは,ADSLを使わないときはスプリッタを外す。ADSLを使うときは回線選択アダプタを外す,という運用でカバーすることになりそうだが,5月に「マイライン」が始まればアダプタが不用(今でもいちいち事業者識別番号を回せば済むことではあるが)になるので,少しは楽になるだろう。
もうひとつ,ADSLを利用中に電話が着信したらどうなるかを試してみた(もちろんスプリッタ経由の電話)。結果は,着信時にADSLが切れてしまった。ただし,ADSLは回線をすぐに再接続するので実質的にはほとんど問題はない。再接続の所要時間は30秒を切るくらいである。PHSなどでのダイヤルアップに慣れた感覚では,さほど問題とは感じられなかった。
最後に,使い始めたばかりではあるが,今後のADSLサービスに求めることを三つほど挙げておきたい。
まず,プロバイダの動的な選択ができないか,という要望である。ADSL回線とプロバイダのどちらが高信頼なのかは難しい問題だが,プライマリのプロバイダが不調のときにセカンダリのプロバイダに同じADSLでつなぎたいというのは,自然な要求ではないだろうか。また,高速なアクセス回線が前提のリッチ・コンテンツが,他のプロバイダにあるとき,そのプロバイダにつなぎに行きたいということもあるのではないか。
現状では,特に私の選んだような事業者では,プロバイダ経由で料金を徴収しているため,プロバイダとADSL回線がかなりタイトな関係になっている。ADSLモデムの設定画面では,複数の接続先を登録できるようになっている。ビジネス上の制約ではあろうが,使い勝手の面からはぜひ実現して欲しい機能の一つである。
次にVPN(Virtual Private Network)やVoDSL(Voice over DSL)などのアプリケーション・サービスの充実である。
VPNは,会社のネットワークへのリモート・アクセスに必要だ。もちろん,企業ネット側の受けの問題があるが,せっかくのADSL回線を切ってダイヤルアップするのはいかにも面倒である。VoDSLによる音声サービスは,通話料収入が見込めるだけに,ADSL事業者が取り組んでも良いのではないかと考えられる。実際米国では,CLEC(Competitive Local Excahge Carrier)と呼ばれるADSLなどを提供する事業者が音声まで提供するというサービスが本格化しつつある。もっともこれは,プロバイダとADSL事業者の領域ではなく,こういった機能を提供するASP(Application Service Provider)のビジネス領域かもしれない。
最後がオンライン・セキュリティ・サービスである。常時接続が普通になれば,セキュリティ対策は不可欠になるだろう。今回届いたADSLモデムにも,最低限のパケット・フィルタリング機能がついている。モデムのパスワードも自分で設定できるようになっている。インターネットからADSLモデムやパソコンに不正にアクセスされないようにするためである。
しかし,VPNなどのアプリケーションを使うようになれば,もっと高度なファイアウォール機能が欲しくなるはずだ。これをユーザーが自分で運用するのはけっこう大変。ウイルス・スキャンなどと合わせてネットワーク側でサービスとして提供するという可能性もあるのではないか。セキュリティなしが4000円,セキュリティ付きが6000円などと言われたら,個人ユーザーでも検討に値するのではないだろうか。
で,率直なところ,「今より速いパソコンが欲しくなった」---。買い物が買い物を呼ぶという典型的な状況である。
あなたにお薦め
今日のピックアップ
-
常駐・SES・多重下請け全部やらない、大塚商会流「人手に頼らないSI」の極意
-
3年でセキュリティー投資額は2倍以上に、プロ人材を集め「先守後攻」貫く日清食品
-
ZOZOマリンスタジアムに現れたスマートゴミ箱、観客動員増続く千葉ロッテの追い風に
-
東芝系がリバースエンジニアリングに生成AIを活用、20万行の解析を倍速の3カ月で
-
IPv6とIPv4の混在期は当分続く、習得したい3つの「共存技術」
-
上司や顧客に言われた無理難題を部下や後輩に押し付けない方法
-
JavaScript使いこなしの鍵を握る関数、場合によって適した方式を見極める
-
開発時のCO2排出量は準備段階含む、NTT系・NEC・富士通・日立がルール策定
-
ビジネスメールを最低限の指示でパパッと、5つのAIサービスによる作文の「出来」
-
安くて便利な指紋認証リーダーを増設、ログインが簡単で素早く
-
タブの操作性はChromeとEdgeで同レベル、再表示やグループ化の機能が両方に
-
安さで選ぶと泣きを見る、将来性を重視するなら中級機以上のスマホがお薦め
注目記事
おすすめのセミナー
-
DX時代のベーシックスキル
わかりやすい構成のeラーニングで、DX時代の働き方の基本となるビジネススキルを、先人の知見、先進...
-
1級建築施工管理技士 第1次検定対策(オンラインサービス)
本サービスは、1次検定突破に向けて不可欠な知識を学べる「動画講義」と、実力と知識の定着を測るため...
-
2024年度 技術士 建設部門 第二次試験対策「個別指導」講座
本講座は、効率的な勉強を通じて、2023年度 技術士 建設部門 第二次試験合格を目指される方向け...
-
技術士 建設部門 第二次試験対策 動画速修コース(オンラインサービス)
本コースは、“点が取れる論文の書き方”に絞った講義となっており、各問題の特徴から基本的な文章の書...
-
1級土木施工管理技士 第1次検定試験対策(オンラインサービス)
本サービスは、オンラインで1次検定突破に向けて不可欠な基本知識を学べる「動画講義」と過去問を繰り...
-
生成AIモデル学習を実現するチップレットパッケージ
スケーラブルなチップレットパッケージの傾向と課題を解説。光電融合技術に基づくCPOによるシステム...
-
自動車未来サミット2024
100年に1度といわれる変革期にある自動車業界。最近は電動化トレンドに変化が見られます。自動車業...
-
「仮説立案」実践講座
例えば「必要な人材育成ができていない」といった課題に、あなたならどう取り組みますか? このセミナ...
注目のイベント
-
プラチナフォーラム 2024 Spring
2024年 4月 26日(金) 13:00~17:00(予定)
-
日経クロステックNEXT 関西 2024
2024年5月16日(木)~5月17日(金)
-
日経ビジネスCEOカウンシル
2024年5月16日(木)17:00~19:50
-
VUCA時代に勝ち残る戦略的サプライチェーン構築に向けて
2024年 5月 24 日(金) 10:00~16:20
-
人手不足を乗り越える 日本の産業界成長のシナリオ2024
2024年5月30日(木)10:20~17:45
-
キャリア・オーナーシップが社会を変える
2024年6月3日(月)~6月5日(水)
-
DX Insight 2024 Summer
2024年6月4日(火)、5日(水)
-
WOMAN EXPO 2024
2024年6月8日(土)10:00~17:30
-
デジタル立国ジャパン2024
2024年6月10日(月)、11日(火)
-
DIGITAL Foresight 2024 Summer
2024年6月13日(木)~8月8日(木)16:00~17:00 ※毎週火・木曜開催予定
おすすめの書籍
-
図解 木造住宅トラブルワースト20+3 「雨漏り事故」「構造事故」の事例から学ぶ原因と対策
木造住宅のトラブルを「雨漏りワースト20」と「構造ワースト3」として類型化。原因と対策と損害額が...
-
東京大改造2030 都心の景色を変える100の巨大プロジェクト
建築や土木の専門記者が取材した、一歩踏み込んだ東京の再開発プロジェクトを豊富な写真や図面で紹介し...
-
一級建築士矩子と考える危ないデザイン
住宅や建築物で起こる身近な事故と背景、効果的な防止策を人気建築漫画「一級建築士矩子の設計思考」の...
-
ソフトバンク もう一つの顔 成長をけん引する課題解決のプロ集団
ソフトバンクにはモバイルキャリア事業以外のもう一つの顔が存在する。本書ではキーパーソンへのインタ...
-
検証 能登半島地震 首都直下・南海トラフ 巨大地震が今起こったら
地震発生直後に現地で撮影した被害写真を多数掲載。専門家や施設関係者への取材から見えてきた建築・土...
-
次世代自動車2024
【4月30日まで早割実施中!】日経Automotiveが、激動する自動車業界の1年を振り返り、今...
日経BOOKプラスの新着記事
-
はじめに:『図解 木造住宅トラブルワースト20+3 「雨漏り事故」「構造事故」の事例から学ぶ原因と対策』
-
はじめに:『美術館に行く前3時間で学べる 一気読み西洋美術史』
-
はじめに:『ジオストラテジクス マンガで読む地政学 世界の紛争・対立・協調がわかる』
-
東京・吉祥寺 街々書林 旅心を刺激する魅惑の本屋さん
-
田内学「お金自体には価値がない」 この問いはなぜ生まれたのか
-
マッキンゼーが分析 日本企業のM&Aの傾向とこれから
-
はじめに:『ソフトバンク もう一つの顔 成長をけん引する課題解決のプロ集団』
-
もはやひとごとではない物語 石原壮一郎が選ぶ夫婦関係を見直す2冊
-
競馬・宝くじと比べれば明快 生命保険は行動経済学的に不合理
-
はじめに:『東京大改造2030 都心の景色を変える100の巨大プロジェクト』
日経クロステック Special
What's New
総合
- 生成AIとサイバー攻撃/重要な4つの観点
- PayPay銀行、新時代の銀行インフラ
- “新しい働き方”にふさわしいPCとは?
- システム運用を劇的に効率化するには?
- デザイナー、技術者必見のものづくり技術展
- 【生成AI事例】デジタルで現場をDX化
- 業務や役割に応じた「社員に最適なPC」
- 「クラウド時代のあるべき運用」を熱く議論
- 生成AI活用へ「待ったなし」成功の秘訣
- 目指すは相互に行き来できるマルチクラウド
- 「稼ぐ力」を劇的に高めるROIC経営
- デルタ電子とロームが語る次世代電源戦略
- 大企業にもキントーンの導入が進む理由
- 「サーバ―」部門満足度トップ企業に訊く
- 医療セキュリティ対策の鍵はSaaS化?
- 製造業DX「データドリブン経営成功のシナリオとは」
- NTTドコモ支援の実践型教育プログラム
- 最新の「ポスト認証攻撃」をいかに防ぐか?
- 設備・建材活用の現場から(3)−ボアシス
- ビジネスPC、ITデバイス購買DXを推進
- 大教大とマウスパソコン教室の在り方を研究
- ジェイテクトエレクトロニクスのDX事例
- 欧州トップ企業語る日本のセキュリティー
- 生成AIの活用の鍵は「内製とアジャイル」
- AIと自動化でエンジニアの能力を解き放て
- NTTデータに優秀なデジタル人財が集まる理由
- 専門家が斬る日本の意識と対策の現状は?
- 神田れいみと学ぶ「ネットワーク活用白書」
- ゼロトラスト成功の秘訣を神田れいみと探る
- オリックス銀行×富士通時田社長 特別鼎談
- ERPプロジェクト≫IT人財の必須条件は
- マネージドサービスが安価に利用できる理由
- 脱レガシー案件≫SIerに必要な人財像は
- DXや生成AI活用に挑む大阪府
- 3段階で考える、DXで企業力を高める方法
- イノベーションの起爆剤
- ビジネス戦略と連動したデータマネジメント
- 大規模プロジェクトでPMが注意すべき点は
- 守りながら攻める“製造DX”の方法論とは
- 最新サーバーに学ぶ熱設計の最前線
- ランサムウエアから診療データはこう守る
- PC管理の課題を課題をまるごと解決
- 日本語に強い「和製生成AIモデル」が誕生
- 動画解説>生成AIからDX変革まで
- 大阪・名古屋エリアのDXが注目される理由
- 木質建築空間デザインコンテスト受付開始
- 最適なネットワークを早く安く簡単に実現!
- セキュリティ×スキルUP≫JSOLの提案
- 力点は「未来予測」へ:データ利活用の勘所
- 生成AI活用でSAP BTPの価値が進化