恒例となっている米Intelの開発者会議「Intel Developer Forum(IDF)」が2001年2月27日~3月1日に米サンノゼで開催された。合計で250以上の技術セッションを用意し,会議自体はこれまで通り盛会だった。開催期間の3日間とも早朝から米Intel社の役員が基調講演に登場するのも,いつもと変わらない。

 話題も数は豊富だった(BizTech特番『IDF速報』)を参照)。しかし,何かが違うのだ。

 今回参加した率直な感想は,「新しい技術を議論する場としてのIDFは,そろそろ転機を迎えているのではないか」ということ。何度もIDFに足を運んでいる筆者には,その「衰え」「迷い」の兆候がどうしても気になってしまう。

 本論に進む前にまず,IDFについて簡単に説明しておこう。IDFでは,マザーボード上の部品配置や回路配線パターンの設計ノウハウなど,パソコン開発者を対象とする技術セミナが催される。さらには,Intel社が開発中のマイクロプロセサに関する最新の技術情報を紹介するとともに,同社が提案する新しい技術の発表と,その普及促進を図る場となっている。つまり,今後のパソコン関連の技術トレンドを知ることができる重要な会議である。

期待はずれ

 ところが,今回のIDFは私の期待を裏切るものだった。

 社長兼CEOのCraig Barrett氏をはじめとする7人の幹部が基調講演で述べたのは,(1)直近の製品計画(0.13μmの半導体技術で製造するPentium IIIプロセサの予告,次世代Itaniumプロセサの予告,Pentium III Xeon後継品をXeonと命名したこと),(2)以前のIDFで紹介した技術の開発進捗状況(USB 2.0,Peer to Peer Working Group,InfiniBand,Integrated Performance Primitivesなど),(3)新製品の紹介(1チップのギガビットEthernetコントローラ)程度だった。

 唯一IDFらしい発表といえば,(1)Peer to Peer Marquamプログラムの発表,(2)PCI後継の次世代I/Oバスの予告くらい。しかし,どちらも具体的な内容を明らかにするには至らなかった(後者は秋のIDFで仕様案(Preliminary Spec.)を公開する)。

 デスクトップ・パソコン向け次世代用I/Oバスの発表に際しては,ISAバスからPCIバスに移行する過程で,EISA,MCA(マイクロチャネル),VL-Busなどいくつかの仕様が乱立した過去の経緯を持ち出し,Intel社主導の標準化の妥当性を訴えた。しかしIntel社の意気込みとは裏腹に,会場は今一つ盛り上がりに欠けた。

 具体的な仕様が明らかにならなかったこともあるが,Intel社主導でパソコン関連の技術を作り上げていく手法に懐疑的になっている会場の雰囲気を筆者は感じた。

マイクロプロセサの発表も迫力不足

 IDFを盛り上がりに欠けたものにした一因は,マイクロプロセサのデモンストレーションが迫力不足だった点にもある。

 確かにPentium 4を発表したばかりであり,ちょうど新製品の谷間の時期だったことは事実だ。しかし,せっかく0.13μm技術で製造したPentium 4を披露したのだから,「“超”高速の周波数」でのデモンストレーションを見せて欲しかったところだ。前回のIDFでは0.18μm技術で製造したPentium 4が2GHzで動作することを示したが,今回でも同様の期待を寄せたのは筆者だけなのだろうか。

 マイクロプロセサに関してIntel社は今回,次世代Itanium(開発コード名「McKinley」)の披露という目玉を用意した。McKinleyは,2001年3月末までにはサンプル品を搭載したシステムを先行開発者向けに出荷する予定である。

 McKinleyのマイクロアーキテクチャなど技術的な詳細の発表はなかった。明らかにしたのは,初代Itanium(開発コード名「Merced」)と比べて(1)内蔵演算器を増やす,(2)外部バス転送能力を3倍にする,(3)2次キャッシュを集積し3次キャッシュをパッケージ内に搭載するといったところ。ちなみに初代Itaniumを搭載した量産システムが登場するのは2001年4月以降である。

ポスト・パソコンを探しあぐねている米Intel

 今回もIDFに参加した筆者の脳裏を最終的によぎったのは,今後のビジネス戦略に対するIntel社の“迷い”である。

 初日の基調講演でBarrett氏は,Intel社の研究開発の方向を「Silicon for the Internet」とし,インターネットを中心とした情報システムのリーダー企業となるため,新製品や新技術を投入していくとした。

 具体的には,(1)パソコン向けのIA-32,(2)携帯電話向けのXScale,(3)通信プロセサ向けソフトウエア・アーキテクチャのInternet Exchange Architecture(IXA),(4)サーバー向けのXeonやItaniumブランド---という四つのアーキテクチャや製品をシステム構築の部品(ビルディング・ブロック)として提供するという。

 Barrett氏の講演は,パソコン中心だった同社の製品開発の軸足を,インターネットを中心とした幅広い市場に移していくことを意味する。反面,パソコンに次ぐ確かな市場基盤がどこにあるのか,Intel社が探しあぐねているとも解釈できる。

 ISAバス廃止の提唱を機に始まったIDF。現時点で,その目的をほぼ達成した。Intel社のビジネスの方向転換とともに,IDFも転機を迎えたようだ。

(神保 進一=インターネット局ニュース編集部次長)