2000年は「eビジネス」がキーワードとなってIT投資を牽引し,挙げ句の果てにそれが行き過ぎてネットバブルを引き起こした。現在はそうした問題も沈静化し,eビジネス企業の実態に即して投資判断を行うようになってきている。その代償は高かったとも言えるが,これからは,実ビジネスに腰を据えた地道な取り組みが進んでいくだろう。

 さて21世紀に入った2001年---今年は,「ブロードバンド」がけん引役となってIT投資は拡大していくと予想される。実際,ブロードバンドの環境は着実に整いつつある。とりわけ,コンシューマ分野では話題に事欠かない。

急速に拡大する「ブロードバンド」

 たとえばNTTは昨年12月,光ファイバを使ったIP通信サービスを発表した。東京都心や大阪の一部限定地域という制限はあるものの,とにかく高速のインターネット・アクセス・サービスが始まる。

 サービス・メニューは,10Mビット/秒を最大768ユーザーで共有する月額3800円の集合住宅向けメニュー,10Mビット/秒を最大256人で共有する月額1万3000円の基本メニュー,企業向け高スループット・メニュー(10Mビット/秒を最大32ユーザーで共有。月額3万2000円)である。2003年3月までに政令指定都市,2004年3月までに全県庁所在地へと,順次,サービス地域を拡大していく予定という。さらに料金は未定だが,100Mビット/秒のサービスも計画されている。

 また,兵庫県の川西市と猪名川町の阪急日生ニュータウンの一戸建てでは,NTT-MEなどが各戸まで光ファイバを整備し,いわゆるFTTH(ファイバ・ツー・ザ・ホーム)で,最大10Mビット/秒の通信サービスの提供を始めている。

 さらに,有線ブロードネットワークスが2001年の2月に発表したサービスは,100Mビット/秒の環境を提供するというもの。しかも料金は,月額6000円ちょっとの固定料金。今まででは考えられない安い価格設定である。もちろん,ネットワーク構成やスループットなどにはまだ見えない部分も多く,100Mビット/秒を鵜呑みにはできないが,ともかく超高速サービスを個人で利用することが可能になったのである。

 まさに2~3年前とは様変わりである。ついこのあいだまでは,日本においてブロードバンドの通信インフラができるのは早くて2005年,遅ければ2010年になるという予測もあった。このペースでいけば,予想外にブロードバンド環境の普及が早まるかもしれない。

地方も立ち上がる

 現在,民間ベースのブロードバンド・サービスの提供が発表された地域は,いわゆる大都市だけである。そうなると地方はどんどん取り残されるということになってしまう。

 しかし地方も黙ってはいない。手を打ち始めている。例えば福岡県は,県の予算で県下全域をカバーする高速の2.4Gビット/秒のネットワーク「ふくおかギガビットハイウェイ(仮称)」の構築を発表した。県内の主要な都市にアクセスポイントを設置する。

 エンド・ユーザーへのサービスの提供は民間業者に委託した。県はバックボーン料金を無料としているので,その分だけ民間のサービス料金も下げられるはずだという。これからは,こうしたやり方が全国各地で展開されていくと思われる。

 ブロードバンドは有線にとどまらない。携帯電話を使った高速データ通信サービスも,ブロードバンドの一翼を担うものだろう。NTTドコモの第3世代携帯電話サービスは,5月末に始まる予定だ。最大データ伝送速度は384kビット/秒である。

 しかし,大きな問題が残されている。コンテンツやアプリケーションである。

 例えば,ブロードバンドの環境では,その高速性から高精細/大容量の画像データなどを容易にやり取りできるようになる。インターネット上での放送的なコンテンツやサービスも出てくるだろう。ここで問題になるのが,デジタル画像を使いやすく,適切に処理することのできる人材の不足である。かつて,ホームページの制作でもそうだったが,デザインのセンスなど,ハードウエアやソフトウエアといったIT技術だけではどうにもならないスキルがデジタル画像の処理には不可欠なのである。

 これは一例だ。ブロードバンドが実現すれば,高速にしかも常にどこからでもインターネットにアクセスできるようになるだろう。しかし,その使い方はまだよく見えていないとは言えないか。企業が,ブロードバンドを生かすためには,今までとは違った,ブロードバンド向けのスキルを持った人材を育成することが急務になる。

(上村 孝樹=コンピュータ局主席編集委員)