すぐれたEC(電子商取引)サイトを作りたいならば,誰もがこう考えるに違いない。24時間,365日,きちんとサービスを提供する。アクセスが集中してもレスポンスを低下させない。購入してもらった商品は正しく送り届ける。顧客の個人情報はけっして外部に漏れないように厳重に守る。

 ECに取り組んでいる企業からは「そんなことはもうやっている」という答えが返ってくるだろう。ところが,「ユーザビリティの向上」,つまり顧客にとって分かりやすく使いやすいECサイトを作っているかという話になると,「うちのサイトを見てくれ」と自信をもってアピールする声はあまり聞こえてこなくなる。

 2月19日に東京・新宿で,米国のニールセン・ノーマン・グループというコンサルティング会社が,Webサイト,ECサイトのユーザビリティに関するセミナーを開催した。同社は,ユーザー・インタフェース関連の著名な研究者が集まって作った会社である。その1人,ニールセン氏の講演に非常に興味をもった。BtoC(企業対消費者)のECサイトを調べたところ,成功しているECサイトの方がそうでもないECサイトよりも使いやすいという内容である。

 同社は次のような実験をした(関連情報)。「服」「デパート」「花」「食品」「家具」「音楽」「玩具」に関する20のBtoC ECサイトを対象に,20代から50代のユーザー64人を集め,やろうとしていること,感じたことを口に出してもらいながら実際に買い物をしてもらった。

 そのときの様子から,20のECサイトにはユーザーを迷わせるようなデザイン上の問題が多数あることが分かった。発見した何千もの誤りを分析し,それを使いやすいWebサイトを作るための219のガイドラインとしてまとめた。例えば,「検索ボタンはページの上の方に置く」「商品販売のページでは,商品を見せるときに在庫があるかどうか分かるようにする」といったルールや,多数の商品があったときにそれをうまく絞り込む方法などをまとめている。

 ガイドラインが出来上がると,今度はそれを別の20のECサイトに適用し,どの程度満たしているのかを調べた。比較のために,米国でビジネス的に成功している10のECサイト(「ベスト10」と呼ぶ)と,それほどでもない10のECサイト(「ミドル10」)を調べた。その結果,ベスト10のガイドラインへの適合率は平均51%,「ミドル10」は平均37%だった。ベスト10の中の1社,米アマゾン・ドットコムは適合率72%とトップの成績だった。ECビジネスでの売り上げと使いやすさには関係があるという結果である。

 「ユーザビリティにかける予算などない」という声はよく聞く。これに対しニールセン氏は次のような方法を推奨する。

 ECサイトの公開前に,数人にそのサイトを操作してもらう簡単なテストを実施する。参加者には,プログラマやエンジニアではなく,一般ユーザーに相当する人を選ぶ。テストは2~3日でいい。きちんと製品を見つけられるか,購入プロセスを完了できるか,どれくらいのレスポンスが得られているかなどを調べ,その結果をベースにWebデザインに改良を加える。これだけの作業で,ユーザビリティは大幅に改善するという。

 こうしたテストならコストはたいしてかからない。サイトのリニューアル時にでも,一度試してみてはどうだろうか。それがベスト10入りのきっかけになるかもしれないのだから。

(稲葉 則夫=日経インターネットテクノロジー編集長)