不謹慎な物言いで恐縮だが,企業間EC(電子商取引)にまつわる大半の話がつまらない。

 ECのうちBtoB(企業間)の規模は2000年で21兆6000億円---。電子商取引推進協議会(ECOM)がアクセンチュアや経済産業省と共同で行った調査を見ると,確かにBtoBでの取引は巨額だ。BtoC(消費者向け)の8240億円に比べると26倍もの規模になる。問題は,その規模に見合うインパクトをビジネスに与えているかである。

 ECOMの報告書も指摘しているように,BtoBのECのうちe-マーケットプレイスは1%に満たず,その大部分は既存のEDI(電子データ交換)をインターネットに乗せたに過ぎない。受発注業務の効率化のために導入しているEDIを専用線などからインターネットに乗せ換え,通信料などのコスト削減を狙ったものだ。つまり,BtoBは規模の大きさに見合うほど劇的な意味はない。その取り組みの大半は,多くの企業が営々と積み上げてきた業務改善の延長線上にある。

 このためBtoBに関する論議も,業務改善の観点から語られる場合が多い。当然,そうした論議はエキサイティングなものではない。この手の論議は,取引先を何社切るのか,従業員を何人リストラするのか,という話に帰着することはあるが,BtoCの取り組みに見られるような,新しいビジネスの可能性に挑むというイノベーションの話にはならないからだ。

 もちろん,BtoBで業務改善を図ることが重要ではない,などと言うつもりはない。EDIをインターネット化するのも大切なことだし,SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)などに取り組むのも必要なことだ。ただ私は,BtoBにもBtoCと同様,新ビジネス創造の観点がもっとあっても良いと思う。

 BtoBは通常「企業間」と訳す。しかし実際は,デマンド・サイドの観点の話であることが多い。部品や資材を調達する大手メーカーなど,“お客さん”側が自らの調達業務を効率化するためにECに取り組む。そんな話だ。EDIをインターネットに乗せたのだから,当然と言えば当然だが,従来のハブ・スポークの関係がそのまま持ち込まれたわけだ。BtoCで言うと,「ネットで買い物できて便利だな」という消費者サイドの話である。

 デマンド・サイドの観点のBtoBからは当然,新しいビジネスの創造といった話は出てこない。それはサプライ・サイド,つまりお金を儲ける側が取り組む課題だからだ。BtoCなら,ビジネスの主体はサプライ・サイドの企業のため,新しいビジネス・モデルやマーケティング手法などがどんどん出てくる。アマゾン・ドットコムのような,業界の枠組みを一変させるビジネスも生まれている。

 ではBtoBだって,サプライ・サイドが主導するビジネスならどうか。実際,数少ないとは言え,デマンド・サイド主導のBtoBより,はるかにエキサイティングである。

 例えば,文具業界はあと数年ですっかり様変わりするだろう。最大手のコクヨが,2001年1月に企業向けのネット販売サイト「kaunet」を立ち上げるなど,BtoBに本気になったからだ。プラス子会社のアスクルは,2000年度の売上高800億円のうち2割以上をインターネットで売る。これを大変な脅威と受け止めたコクヨは,ECへと一気に舵を切った。

 「ECで流通が淘汰されるのはやむ得ない。卸にしても,卸として食べていける時代は終わった」。強大な流通網を誇ったコクヨの幹部から,そんな発言が飛び出すまでになった。

 IT業界で言えば,ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)も,本質的にはサプライ・サイドが主導するBtoBの試みである。しかも,既存のビジネスの枠組みを超えた,新ビジネス創造の試みだ。従来のシステムの受託開発やパッケージ販売に代えて,インターネットを通じてサービスを提供しようというのだから。従ってASPがビジネスとして定着すれば,IT業界も確実に様変わりする。

 もちろん,こうしたサプライ・サイドからのBtoBの試みは現在,間接材や雑品,サービスの分野にとどまっている。確かに,部品や直接材の取引といったBtoBの“メインストリーム”は,サプライ・サイドが主導するのは難しい。だが,企業相手に商売する企業なら,もっと自らのビジネスとしてBtoBを考えた方が良い。消費者相手の企業が消費者向けECに取り組んでいるように,企業がお客さんなら「企業向けEC」の可能性があるはずだ。

 サプライ・サイドでBtoBを考えれば,既存顧客の満足度の向上や新規顧客の獲得など,ネットを活用したマーケティング全般への取り組みも視野に入ってくる。取引のフェーズだけに限定しなければ,自らの主導でBtoBに取り組める余地も大きいはずだ。

 顧客企業に要請に従って,こっちのEDI,あっちのe-マーケットプレイスへとやみ雲に参加するだけで終わるより,インターネットを使った新しいビジネスの提案した方が,業務改善に取り組む顧客の利益にもかなう。そして,その方がずっと創造的で,ビジネスも断然面白いはずだ。

(木村 岳史=日経ネットビジネス副編集長)