「今,サーバー・キャパシティ・エクスチェンジというサービスを展開しようとしているんです」----。米国での取材中に,こんな話に出会った。一種のマーケットプレイス(インターネット取引所)で,WWWサイトなどを運用するユーザーに対して,必要とするサーバー・キャパシティ,つまりそれだけの処理能力を持つサーバー・マシンを提供してくれるデータ・センターを探してくれる。

 主にCPU数とメモリー容量,そしてディスク容量といった条件に基づいたマッチング・サービスである。場合によっては,ネットワークの帯域も条件に含まれる。こうしたサービスが登場すると,例えば,××商戦と呼ばれる時期や何かのイベント時のように,Webアクセス数の急増が見込まれる場合に必要なサーバー・リソースを入手しやすくなる。

 こうして言葉にしてみると,たいしたインパクトは感じられないかもしれない。マーケット・プレイスがいくつかのデータ・センターと契約してさえいれば,サービスを実現すること自体は難しくない。

 では,なぜおもしろいと感じているかと言うと,理由は二つある。一つは,サーバー・リソースを低コストで短期間に入手しやすくなること。もう一つは,このサービスを提供するのがMSP,つまりマネージド・サービス・プロバイダだということである。MSPはサーバーの運用や管理を代行してくれるサービス・プロバイダだ。

 サーバー・リソースの低コスト化は,マッチング・サービス上でのサービス・プロバイダ間の競合によって成立する。他の種類のサービスではあるが,そういう実績もある。英国のBAND-Xという企業が提供しているインターネット接続のマッチング・サービスである。ユーザーは,必要とするアクセス回線の帯域幅,ネットワークの品質,コストの観点からサービスを選べる。しかもそれぞれのISPは,BAND-X向けの特別価格を設定していて,通常のサービスよりも低価格になっているという。

 これと同じことが,サーバー・リソースのマッチング・サービスでも起こりうる。特定のデータセンターだけでなく,すでに利用中のものとは別のデータ・センターを併用することで,データ・センターのリライアビリティ向上にもつながる。

 ただこれだけでは,ユーザーにとってサービスを選ぶ場が増えるだけでしかない。確かに低コスト化は図れるかもしれないが,ユーザーは適切なデータ・センター選びを迫られる。サービス品質を見極めなければならない。複数のデータ・センターを使い分けるということは,分散システムの運用・管理を強いられることにもなる。システムにトラブルが発生した場合などでも,連絡先がバラバラになってしまうというデメリットも考えられる。

 そこで重要な意味を持つのが,MSPによるサービス提供だ。まず,すべてのサーバー・リソースを一つのMSPから購入できる。どのデータ・センターを選んでも,システム全体の運用・管理を一括してMSPに委託できる。いわゆる,ワンストップ・ショッピングである。ホスティングをベースにしたマネージド・サービスを提供するMSPなら,運用代行するシステムのSLA(サービス・レベル契約)も提供してくれる。このため,必要以上にデータセンターのサービス品質に気をつかう必要もないかもしれない。

 少々MSPに肩入れしすぎのきらいはある。MSPといってもサービス範囲はプロバイダによってまちまちだし,MSPの運用力・技術力やサービス品質についてはユーザーが見極めなければならない。特に日本では,MSPはまだこれから立ち上がる分野。ユーザーに受け入れられるかどうかもまだわからない。

 米国でさえ,まだ市場が成熟しているとは言えない状況である。しかし,マネージド・サービスにいろいろな付加価値サービスを組み合わせることで,ユーザーにさまざまなメリットがもたらされる可能性があることは確か。キャパシティ・エクスチェンジやキャパシティ・オンデマンドがその典型例だ。

 ユーザーが,比較的低コストで,パフォーマンスも信頼性も高いシステムを,手軽に手に入れられる----。そんな環境を期待してやまない。

(河井 保博=日経インターネット テクノロジー)