パソコン生産で世界の工場となった台湾が“次”に向けて動き出した。ポスト・パソコン時代を控え,携帯電話向けの部品と半導体製造装置に目を向け始めたのだ。特に後者への動きは急だ。

 こう書くとコンピュータ系やネットワーク系の仕事に従事するIT Proの読者の方々は,「半導体の話なんては興味はない」と言われるかもしれない。しかし筆者がここで強調したいのは,半導体や製造装置への取り組みから分かる,したたかな台湾企業のビジネス手法である。こうした点に興味のある方は,お付き合い願いたい。

半導体製造装置の展示会がパソコン・ショー“Computex Taipei”と肩並べる

 台北市にある世界貿易センターで2000年秋に,半導体製造装置・材料に関する展示会「SEMICON Taiwan」が開かれた。米国・日本の製造装置メーカーの製品は,SEMICON Taiwanの2カ月ほど前に米国で開かれたSEMICON Westの焼き直しが多く,見るべきものが少なかった。これに対し台湾企業の製品は,出品数が急速に増えたこともあって,来場者の注目を集めた。

 台湾で開催される展示会としては,パソコン関連の「Computex Taipei」がつとに有名である。いまや世界的に注目を集める見本市に成長したこともあって,ご存知の読者の方も少なくないだろう。しかし2000年9月のSEMICON Taiwanは,このComputex Taipeiとほぼ同規模にまで成長した。台北世界貿易センターを全フロアーを埋めつくすまでになった(ちなみに,99年の展示スペースはフロアーの1/2,98年までさかのぼると1/4程度だったという)。いかに急成長している分野か想像つくだろう。

 では,なぜこれほどまでに伸びたのか。そこには,台湾流のビジネス手法と計算がある。

台湾のビジネス,キーワードは非競合,補完,成長

 台湾のビジネス流儀は大きく三つに集約できる。すなわち,1)大手とまともに競争する(ぶつかる)製品は作らない,2)大手の製品と補完し合う協調関係を作る,3)成長分野に特化する,の3点である。

 過去を振り返れば,半導体産業の成功例がある。パソコン向け部品を作るための必要性から生まれた台湾の半導体産業だが,目の付け所がやはり“台湾”なのである。台湾は,日本とも米国とも競争せず,しかも日米両国からの需要も見込めるビジネス形態に目を向けた(先の1と2に該当する)。それが,半導体の生産請負(いわゆるファウンドリ業)だった。思惑は当たり,成功をおさめた。

 半導体の品種をみても,台湾らしさが出ている。日本や韓国メーカーが強みを持つメモリー,米国勢が圧倒的なマイクロプロセサは避け,パソコン向けのチップセット・ビジネスを中核に据えた。チップセットはパソコンに不可欠の部品であり,パソコン市場の拡大とともに成長が望める(3に該当する)。

 今度はこの流儀を,今度は半導体製造装置分野に適用した。

 まず有力企業との“非競合”である。半導体製造装置の大手メーカーを挙げると,米国でいえば2000年に1兆円企業になったApplied Materials,次世代技術の銅配線技術の雄であるNovellus Systems。この分野は日本勢も強く,東京エレクトロンや日本真空技術,ニコン,キヤノンなどが名を連ねる。

 台湾がねらったのは,こうした大手企業が手掛けておらず,しかも“成長”が望める「FOUP」と呼ばれる製品だった。FOUPは,口径300mmウエーハ(LSIはこれに回路を焼き付けて作る)の製造工程で使う収納容器。300mmウエーハは,既存の200mmウエーハよりも2.25倍ものLSIを生産でき,半導体の生産性を大幅に高めることができる。コスト削減が図れるとあって,大手半導体メーカーがこぞって移行を進めている成長分野である。

 当然,有力企業は300mm対応の製造装置の開発に乗り出す。しかし台湾企業は,製造装置という成長分野を直接ねらうことはしなかった。それに不可欠な収納容器にターゲットを絞ったのだ。大手企業とは競合しない成長分野である。しかも“補完関係”を築き上げることもできる。まさに先に挙げた3原則にピッタリ当てはまる。

ポスト・パソコン時代をにらみ,携帯電話向け部品開発に力点

 冒頭にも述べたが,ポスト・パソコンを見据えた動きは半導体製造装置に限らない。インターネット家電や携帯電話,インターネット端末(WebPad),PDAなどの技術開発にも,台湾は力を入れ始めた。

 ここでも台湾らしさは発揮されている。携帯電話分野では,フィンランドのノキアや米モトローラなどの大手が手がける電話機そのものは製造しない。電話機に組み込む部品に力を入れる。特に,高周波用のICや表示用のLCDなど,携帯電話に使うキー・デバイスの製造を推進する。

 台湾といえば「パソコンやパソコン部品」。この構図は,ポスト・パソコン時代に突入すれば,成功体験が逆に足かせにもなりかねない危険性をはらんでいる。しかし台湾の産業界は,ポスト・パソコン時代を担う機器向けの部品,そしてその部品を作るための製造装置分野に軸足を移すことによって,その姿を着実に変えようとしている。

(津田 建二=日経エレクトロニクス・アジア担当部長)