1993年ごろだったろうか。PCサーバーやUNIXサーバーを中心としたオープン・システムがブームになり始めたときに,「この勢いなら,今世紀中(2000年まで)にPCサーバーやUNIXサーバーがメインフレームに取ってかわるのではないか?」「いやいやメインフレームは絶対になくならない!」といった議論が盛んだった。

 当時,PCサーバーやUNIXサーバーはまだ限られた規模のシステムにしか適用例がなかった。しかし,PCサーバーやUNIXサーバーが見せつけた構築コストの圧倒的な低さやビジョンの壮大さ,業界全体を巻き込んだ勢いのすごさに,だれもが興奮していた。

 20世紀が終わって,もう一度,7~8年前の議論を思い出してみた。答えは深く考えるまでもなく明白である。20世紀が終わっても,メインフレームはなくならなかった。出荷台数こそ減り続けているが,それでもメインフレームは多くの企業の中心に存在し続けている。

 しかし新たな疑問もわいてきた。というより,同じ問いの繰り返しになってしまうのだが,「いつまでメインフレームはなくならないと言い切れるのだろうか?」というものだ。

 なぜなら,いまERPパッケージ(統合業務パッケージ)は基幹系業務でもほとんどPCサーバーやUNIXサーバーで稼働しているし,企業戦略における重要度がどんどん増大している電子商取引システムが,すべてメインフレームで動いているという話も聞いたことがない(メインフレームの既存システムと連動した例はたくさんあるが・・・)。完全なシステム再構築や新規アプリケーション領域のシステム開発では,確実に脱メインフレーム化が進んでいるのである。

 では,このまま既存システムの寿命が尽き,企業がシステムを再構築し始めたらどうなるか。前述の通り,システム再構築の際に企業が選択するプラットフォームは,PCサーバーやUNIXサーバーである可能性は高い。既存システムのライフサイクルを6~8年と仮定するなら,2007~2009年ごろにはメインフレームの大半がなくなっていてもおかしくない計算になる。

 これまでの8年間でPCサーバーやUNIXサーバーが成し遂げてきた進化(処理性能や信頼性の向上)のスピードを考えれば,これからの8年間でどれだけメインフレームの代替候補として有力になりえるかは容易に想像できる。6~8年後には十分にあり得るシナリオではないだろうか?

 ただし,この結論は現在の業務アプリケーションに求められるシステム要件(処理性能や信頼性など)がそれほど変わらないことを前提にしている。8年前の議論でも,こういう前提条件を意識せずにいたことが議論の盲点となっていた。

 例えば現在のハイエンドPCサーバーは最大32プロセッサを搭載でき,99.9~99.99%の稼働率を実現した。正確な比較はできないが,8年前の一般的なメインフレームと同等以上のスペックを持っていると言ってよいだろう。それにもかかわらず,現在のPCサーバーがメインフレームの地位を揺るがす存在となっていないのは,アプリケーションの質と量がよりハイレベルな領域に移行したからだ。それほど現実の変化のスピードは速かったということである。

 6~8年後には,想像もつかないような業務アプリケーションが生まれるかもしれないし,現在とは異なる,より高度なシステム要件を企業に突きつけているかもしれない。実際,企業間の電子商取引が進展して企業システム同士が直接連携するようになるとしたら,情報システムの世界が一変する可能性は十分にある。

 そういう未知の世界で,PCサーバーやUNIXサーバーがメインフレームにどれだけ迫れるのか。メインフレームで培った技術を後からどん欲に吸収してきたPCサーバーやUNIXサーバーには,メインフレームの代役を務めるだけの成長余力は十分ある。あとは,それをどれだけのスピードで実現できるかがカギになる。そして実現できたときに,「メインフレームの消滅」が現実味を帯びてくる。

 PCサーバーを取材の対象とする筆者にとって,まさに「お楽しみはこれから」ということになりそうだ。

(渡辺 享靖=日経Windows 2000副編集長)