企業システムのサーバーに対して,携帯電話からのアクセス数が急増している。チケット予約やオンライン株式の取引などのサービスをiモードやEZweb,J-スカイといったWWWブラウザ機能付きの携帯電話からも利用できるようにしたり,営業社員が出先から携帯電話を使って社内システムにアクセスできるようにしたりする企業が増えているからだ。

 1月26日にはiモードの新機種としてJavaプログラムを動かすことができる「503iシリーズ」が登場し,今まで以上に複雑なシステムが実現できるようになった。通信速度が格段に速い次世代の携帯電話サービスもまもなく始まり,今後も企業システムの端末としての携帯電話の比重は重くなっていくだろう。

 ただ,ここで心配なことがある。携帯電話からのアクセス増に対する「サーバー側の“備え”は十分か」,ということだ。

 携帯電話とパソコンでは,アクセスの特性が異なる。この違いを知らずに携帯電話に対して安易にサーバーを開放すれば,サーバー・ダウンなどのトラブルに見舞われる可能性がある。

膨大なアクセスがサーバーを襲う

 サービスを携帯電話に開放すると,「アクセス数は1ケタから2ケタは増える」(インターナショナル システム リサーチ 専務取締役 営業部 部長の宮井計人氏)。もちろん,通信速度や画面サイズの制限などを考えると,携帯電話で表示できるコンテンツはあくまで“軽いもの”が中心だ。しかし,潜在ユーザーは多い。例えばiモードのユーザーは,1月21日時点で1800万人を超えている。パソコン相手のとき以上に,サーバーの拡張性が求められる。

 サーバーの拡張性を確保するには,「負荷分散装置」と呼ぶ専用装置を利用することが多い。端末からのアクセスを複数台のサーバーに振り分ける機能を備えたものだ。ただ,相手がパソコンから携帯電話に代わると,負荷分散機能がうまく使えなくなることがある。

 負荷分散装置で端末からのアクセスを分散させるには,(1)どの端末からのリクエストなのかを何らかの識別子を使って特定できるようにし,(2)その識別子を負荷分散装置が判別して振り分ける---という手順を踏む。相手がパソコンならばIPアドレスやCookie変数を識別子にして端末を特定できる。しかし,携帯電話は端末固有のIPアドレスを持たないし,Cookie変数もサポートしないものがほとんどだ。

 そのため,携帯電話からのアクセスを識別するための仕組みを新たに作り込む必要がある。例えばURL(Uniform Resource Locator)のなかに何らかの識別子を埋め込むなどだ。端末AにはTerm-A,端末BにはTerm-Bという識別子を付け,URLのなかに埋め込んでやり取りする。負荷分散装置には,URLのなかを調査し,埋め込まれた識別子を読み取ってアクセスを分散させることが求められるが,最近の負荷分散装置は「URLスイッチ」と呼ぶ機能で対応できるようにしている。

 このような仕組みを作り込んで初めて,携帯電話相手でも負荷分散装置によってサーバーの拡張性を維持できるようになる。

 サーバーにとっての脅威はもう一つある。

SSLがサーバー資源を食いつぶす

 特に企業システムでは,インターネットを介してデータをやり取りする場合に,いかにしてセキュリティを確保するかが大きな課題になる。現状では,SSL(Secure Sockets Layer)と呼ぶ技術を使ってデータを暗号化し,セキュリティを確保することが常套手段となっている。

 iモードはこれまでSSLによる通信に制限があったが,503iシリーズでパソコンと同じSSL通信が可能になった。ただ,携帯電話からもSSLを使った通信を行うようになると,サーバーへの負荷は激増する。SSLの処理はサーバーのCPU能力を大量に消費するからだ。

 そのため,SSLの処理をサーバーから切り出し,かつ高速処理するための「SSLアクセラレータ」と呼ばれる専用装置などを利用するといったことも検討する必要が出てくるだろう。実際にSSLアクセラレータを導入し,サーバーのCPU負荷を大幅に軽減できたユーザーも出てきている。

 携帯電話を相手にするサーバーにとっては,SSLアクセラレータはSSLの処理負荷を軽減してくれる以外にも大きな役割を担う。前述したような負荷分散装置を利用した仕組みを構築した場合,SSLの通信ではURLが暗号化されるため,SSLアクセラレータで暗号を解いてやらなければ,せっかくURLに埋め込んだ識別子を負荷分散装置が読み取れなくなってしまうからだ。

 携帯電話からアクセスされるサイトでは,高度な負荷分散機能やSSLアクセラレータといった技術を組み合わせ,サーバーを支える工夫が欠かせない。端末の機能やコンテンツだけに目を奪われていては,企業のサーバーを脅かす存在になりかねない。

(森山 徹=日経オープンシステム)