政府は国家目標としてIT活用を掲げ,平成13年度予算でバラマキと称されるほどのIT関連費用を計上している。特にデジタル・デバイドの解消という視点で,遅れている中小企業や官公庁のIT活用を促進させる施策が注目されている。だが筆者には,そう簡単にうまくいくとは思われない。

 というのは,これらの企業,組織の多くが未だにIT活用の目的を業務処理の効率化という範囲にとどめて,意識の段階でさえ,その枠を超えようとはしないからだ。

 筆者は昨年,IT活用に関する講演を多く依頼されたが,その際に各地の経営トップと接触する機会を得た。そこで分かったのは,彼らとのあいだに問題認識で大きなズレがあるということだった。

 かつて筆者が日経情報ストラテジーの編集長をしていたときに(1995年ごろの話だが),経営情報化を特集として何度も取り上げた。

 これは,「これからの時代は組織全員が,自分の力で情報の受信・発信を行って,環境変化に素早く対応する問題解決能力を身につけることが不可欠になる。そうしないと大競争(ハイパーコンペティション)時代に生き残る競争力を獲得することはできない」という認識からだった。

 仕事の完全なるデジタル化,企業内外にわたる情報の共有,そしてその先の持たざる強みを発揮できるダイナミックなコラボレーションなどは,ITを戦略的に活用することによってもたらされるビジネス改革である。その大前提となるのが,少なくとも一人に1台以上のパソコンと,インターネットで社内外の仕事の相手と情報のやりとりができる環境なのだ。

 しかし先ほど述べたように筆者の感じでは,この重要性を認識している経営トップの割合が,企業規模が小さくなるほど,地方になるほど,急激に低下する傾向があるのだ。

 結論から言えば経営トップの本音として,「ITを活用することは賛成だが業務の効率化にとどめておいて,経営スタイルや企業文化を改革することまでには踏み込みたくない」ということがあるのではないかと,筆者は感じている。

 組織全員が電子メールで企業の内外にわたって情報の受信・発信,情報共有を実施すれば,ビジネス状況がガラス張りになる。つまり,どこが儲かっているか,赤字なのか,誰が稼いでいるか,そうでない人は誰か,など収支状況や自己責任を明確にする「いわゆるオープン型経営」につながることになる。そういうことへの拒絶反応があるのではないかと思う。

 「景気が悪い状況でそんな予算はとれません」という経営トップもいたが,デスクトップ・パソコンが10万円を切っている状況では言い訳のように聞こえる。他の経費を削ってヤリクリできるのではないか。

 「業務端末としてのパソコン導入なら必要だが,電子メールに使うものは全員に行き渡る必要はない。郵便ポストは会社に1個あればよいはずだ」「もし全員が電子メールを使えるようにしたとして,外部企業と情報を交換するときに,直接的ではなくすべて管理職を経由することにできないか。紙の文書の場合は,現実にそうしているからだ」という声もあった。

 「電子メールを私用に使われると仕事の効率が下がる。インターネットも遊びの道具になる」「そんなものを入れると,せっかく築いた管理体制が崩れてしまう。社員が言うことを聞かなくなってバラバラになる」「かえって意思の疎通が悪くなってしまう」などの懸念の声も聞かれた。

 こうした経営トップは,古い時代のマネジメントの亡霊にとりつかれているのではないだろうか。

 「指示は上から下へ,生かさず殺さず,シロクロはつけない」などの特徴に代表される非効率で変化への対応力が遅い経営スタイルとは,いい加減に決別してもらわなければならない。

(上村 孝樹=コンピュータ局主席編集委員)