iモードにおけるJava技術を使ったサービス「iアプリ」がようやく1月26日に始まる。巷(ちまた)では,「ゲームにしか使えない」「互換性が低い」といった欠点も言われているが,筆者が見るところ1999年にiモードが登場したのと同じくらい大きな意味を持っている。

アプリケーションであることの意義

 iアプリの最大の特徴は,iモードのCompact HTML上で動くアプレットではなく,それとは独立に動くJavaアプリケーションであるということだ。

 この違いは大きい。

 アプレットだと,そのページを見ているときしか利用できないが,アプリケーションは保存しておいて,ネットワークにアクセスすることなく,いつでも呼び出せる。これまでのメールやWebの閲覧サービスはいずれも通信できる状態でしか利用できなかった。iアプリは,一度ダウンロードしてしまえば,通信できない環境でも利用できる。これがiアプリの第1のメリットだ。

 iアプリの第2のメリットは,通信料を抑えられる可能性を持っていること。iモードの通信料は高い。データ通信128バイト当たり0.3円である。NTTドコモの試算によると,着信メロディを1回ダウンロードするのに3.3円,動画の待ち受け画像が14.7円,ニュースを見るのに14.7円,株価を銘柄コードで検索して調べた場合だと20.4~26.4円もかかる。

 このため,ゲームなど,多くのページ数を使い,アクセスする回数も頻繁なサイトでは,ユーザーの通信料負担を減らすために,1バイトでもデータを小さくしようと工夫を凝らしている。わざわざ短い名前のドメイン名を取得するといったことまでしているのだ。おのずと,画像の使用なども制限せざるを得なくなる。

 iアプリではアプリケーションを一度ダウンロードすると,基本的にはそれ以上の通信をすることなく利用できる。更新データを獲得するためにサーバーにアクセスする場合も,従来のiモードのようにページ全体のデータを更新するのではなく,必要最低限のデータに抑えられる。

 例えば株価チャートのようなものの場合,従来はチャート全体の画像を更新するために,下手をすると数Kバイトのデータを毎回読み込むことになってしまうが,iアプリであれば更新されたデータだけを取ってきてiアプリが描画できるので,数十バイトで済むことになる。

 この例では,サーバー側の負担が減るという第3のメリットもある。送るデータ量が減るのもさることながら,チャートの画像をダイナミックに生成する必要がなくなるからだ。このようにダイナミックな画像を使うアプリケーションはiアプリによってこれまでより使いやすくなる可能性が高い。

 第4にiアプリには,定期的に起動する「エージェント」機能を持たせられること。これはユーザー側では設定できず,サーバーであらかじめ設定しないといけないのだが,1時間~99時間まで1時間単位で設定して,起動するようにできる。一種のプッシュ型サービスとして利用可能である。これまでiモードではメールだけがプッシュ型だったが,その世界が大きく広がることになる。

 このほか,iアプリの本質とは関係ないが,iアプリをサポートする「503i」シリーズではSSLに対応するようになったこともビジネス系のユーザーにとっては朗報だろう。

欠点は時間が解決する?

 一方,現状のiアプリの弱点としては,アプリケーションのサイズ制限がきついこと,機種ごとの互換性が低いこと,が挙げられる。

 アプリケーションのサイズは現状最大10Kバイトと決められている。このほかスクラッチパッドというデータ領域を各アプリケーション当たり5K~10Kバイト(基本は5Kバイトだが,機種によって異なる可能性がある)利用できる。

 クライアント上のiアプリ間で通信したり,スクラッチパッドを共有したり,オーバレイのようなことはできないので,この範囲でアプリケーションを完結させなければいけない(これらが制限されているのはセキュリティのためである)。

 この制限は確かにきつい。Java本来の長所であるプログラミングの容易さは,メモリ制限を気にしない状況で成り立つものであり,iアプリのプログラミングはまったく別物と考えた方がよい。むしろ昔のZ80などのマイコンのプログラミングのような感じであり,プログラマの技術による差が出やすいと,歓迎する声もある。

 そもそも10Kバイトの制限は,通信料の問題や,ドコモのゲートウエイにかかる負担などを考慮して決められたものである。必ずしも本質的な理由ではなく,IMT-2000のサービスであるFOMA(Freedom of Mobile multimedia Access)上では,緩和される可能性が高い。この制限だけで,iアプリを駄目だということはできない。

 互換性に関しては二つの側面がある。一つは携帯電話のメーカーが独自の機能を追加することによる非互換性。これは携帯電話メーカーが差異化のために行うものだ。例えば富士通は,F503iのユーザのために専用のアプリケーションを100種提供することを明らかにしている。どの機種でも動かしたいiアプリは,このような独自機能は使わなければよいだけの問題である。

 もう一つはiアプリ自体の未熟により,機種間の動作の違いが表れるというもの。これは初期モデルとしては,ある程度覚悟せざるを得ないところである。これまでのiモードでも,ブラウザの動きは各機種で必ずしも同じでなかったことを考えると,これも決定的な否定要因にはならない。

 そもそも解像度や表示色数,サウンド機能を駆使するゲームなどのアプリケーションは,各機種ごとに別々のiアプリを用意する可能性が高い。アプリケーションで解像度などの違いを吸収すると,サイズの増大につながるからだ。

 携帯電話では,これまでも着メロが機種間で異なっており,機種ごとに別々のデータがあることは,ユーザーにとってもさほど違和感がない。もちろん将来的には改善されることが期待されるが,意外と問題にはならないのではないかと思う。

15年前のパソコンのように差異化の余地は大きい

 携帯電話メーカにとってiアプリの登場は,これまで以上に差異化の余地が大きくなることを意味する。例えばF503iがiアプリを最大50個保持できる(P503iは7個)ことなどは,端的な例である。今後,スクラッチパッドの容量やプロセサの性能といった面でも差異化は起こるだろう。

 その活気は,かつてのパソコンを思い起こさせる。

(松原 敦=日経バイト副編集長)