米サンフランシスコ市で毎年開かれているパソコンの展示会「Macworld Conference & Expo」を1年ぶりに取材した。米Apple Computerからしばらく新製品の発表がなかっただけに,うっ積していたユーザーの不満が爆発したのか,来場者数は過去最高を記録した。会期中,筐体の大部分にチタン材を使った薄型・軽量ノートパソコン「PowerBook G4」が発表されたことは,すでにこのサイトでもお伝えした通りだ。

 会場内に設けられた「インターネットカフェ」を訪れ,ちょっと見慣れない光景に驚いた。じゅうたんに座り込むもの,ベンチでひと息つくもの,いろんな人がさまざまなスタイルでくつろいでいる。いや,くつろいでいるというのは単なる側面,彼らはくつろぎながらインターネット・アクセスを楽しんでいるのだ。寝ころびながら? ネットに接続するケーブルは?? ない?!

 会場には無線LANシステム「AirPort(日本名AirMac)」ステーションが置かれ,各自思い思いのスタイルでインターネットにつないでいるのだ。記者室も同様,テーブルにEthernetの線が何本か引き出してあるのと同時に,ここにもAirPortステーションが来訪する記者団に公開されている。筆者は取材に出かけるのにできるだけ身軽にと周辺機器の多くを日本に捨て置いてきたが,無線LANカードだけは,もしやと思って挿したまま出かけたのが効を奏した。

 私の執筆用パソコンは旧・旧世代に属する「PowerBook 2400c」。それに米Lucent Technologies製無線LAN PCカード(WaveLAN Turbo 11Mb)を愛用しているが,自宅で使っている状態そのままの設定で,現地プレスルームで何の問題もなくインターネットに接続できた。10人近くの人と帯域を共有するから通信速度は遅くなっているはずだが,ほとんどの人はメールを読んだりWebページを参照するだけだから,スピードは申し分ない。

 これこそプラグアンドプレイ。ん? “プラグ”してないから,“アンプラグドアンドプレイ”かもしれない・・・。無線LANのよさは,まさにこういうところにある。

 寡聞にして,各種展示会,国際会議などで無線LANまで置いてユーザーの便をはかった例は他に知らない。普通は,限られたインターネット・アクセス端末を順番待ちで使うのが一般的だ。これはつらい。

 Apple社は自社製品にこの2.4GHz帯無線LAN機能を標準装備または装備できるシステムを売っているから当然だろうと思われる読者も多かろう。しかし,IBM PC互換機の世界でも,この規格による無線LANシステムはかなり一般的に認知されつつある。2.4GHz帯無線LANは別にApple社だけの専売特許ではないのだから,こういう利用形態がもっともっと広範に使われるようになってくれないものかと日々願っている。

 2000年2月に開いたMacworld Expo Tokyo,同5月のWorld Wide Developer Conferenceなどでは無線LANによるインフラを会場に用意したという。特に後者では18台のAirPortベースステーションを横につないで広い会場全体を無線でカバーしたというが,こういう仕組みを公共のイベントに積極的に導入する気概が日本でも欲しいものだ。利用形態を格段に向上させる術がもう,手元にある。しかし,なぜか実世界に導入する段になると動きが鈍い。

 面白いと感じたらどんどん導入してしまう無鉄砲さもIT革命の推進には必要なことだ。できるところからインフラを広げ,一般ユーザーにはやらせる強引な展開が本当のIT革命を引き寄せる。

(林 伸夫=パソコン局主席編集委員)