「1966年秋ベトナム戦争最中,日本の中のアメリカ---米軍・横田基地。ファントムF4戦闘機があわただしくスクランブル発進する基地周辺を殺伐とした空気が包むなか,街では不審な自殺が相次いでいた」。こんなプロローグで始まる長編アニメ映画「BLOOD THE LAST VAMPIRE」。

 この作品が2000年12月22日に開かれた「文化庁メディア芸術祭」実行委員会総会において,第4回(平成12年度)のアニメーション部門大賞に選ばれた。作ったのは「攻殻機動隊 Ghost in the Shell」の製作で知られるプロダクションI.Gである。授賞式は2001年3月12日だ。

 本年度の芸術祭は,海外からの応募153作品を含め,858もの作品が寄せられた。ちなみにアニメ部門の優秀賞には,日本テレビ系ビデオ・メーカーのバップが製作した「陽だまりの樹」(手塚治虫氏原作)などが選ばれている。

 過去のアニメーション部門の大賞を振り返ると,スタジオジブリ作品の「もののけ姫」をはじめ,「老人と海」といった映像の表現に優れた作品が多い。「BLOOD THE LAST VAMPIRE」も高水準のCG(コンピュータ・グラフィックス)やデジタル・アニメーション技術を駆使している。ただし,それだけに頼らずに演出面でも深みを見せているところが特徴的な作品である。とかく技術優先に陥って,CGのデモ・フィルムになりがちな作品が多いなか,映像表現のみならずエンターテインメント性に富んだストーリーを展開していることが大賞受賞の理由だ。

 実は,この作品は映像コンテンツとしての面白さ以外にも大きな特徴がある。それは製作に政府がかかわっている点だ。

政府予算でアニメを製作

 「BLOOD THE LAST VAMPIRE」は,通産省が情報処理振興事業協会(IPA)を通じ,マルチメディアコンテンツ振興協会(MMCA)に委託した「先導的コンテンツ市場環境整備事業」で採択された“事業”の一つである。つまり製作費の一部は国のカネなのだ。その証拠に作品の著作権表示は「(C)2000 Production I.G/SVW・SCEI・IG PLUS・IPA」となっている。

 「先導的コンテンツ市場環境整備事業」とは,平成10年度の補正予算に計上された事業で,一般会計からの出資75億円に基づきIPAが実施したものだ。

 日本ではアニメをはじめ,各種映像を製作するのは中小・ベンチャー企業が中心である。このため経営基盤が弱く,新しい作品やデジタル機器への投資が機動的に展開できなかった。

 そこで,当時アニメ産業について研究を進めていた通産省は,アニメ,CGなどのコンテンツ産業を将来の基幹産業と位置付け,「公募方式」という限定的な形ではあるが,助成する動きに出た。

 75億円という金額は,平成10年度に組まれた補正予算の総額から見ると小さい。だが,「アニメを一つの産業として見ていく」という政府内における動きが,この取り組みを境に徐々に盛り上がってきたのは事実。今回の中央省庁再編にもそれが反映されている。

 従来アニメなどのコンテンツ分野を担当していたのは,通産省の機械情報産業局「新映像産業室」。今回の再編によって経済産業省の商務情報政策局「文化情報関連産業課」が担当することになった。注目すべきは担当部門が“室”から“課”に格上げされている点だ。

 さらに外郭団体の再編も進んでいる。2001年4月にMMCAと財団法人新映像産業推進センター(HVC)の両団体は統合され,「デジタルコンテンツ協会(仮称)」として再スタートすることが決定している。

 政府関係者によると,文化情報関連産業課は映像・コンテンツ産業のなかでも,特にアニメに注目しているという。米国における「ドラゴンボール」「ポケモン」「デジモン」「ガンダム」といった作品の大人気ぶりを見れば,通産省から「輸出産業の育成」という“遺伝子”を引き継いだ経済産業省がアニメ産業に注目するのもうなずける。

 「室から課へ」「団体の統合」。これら組織の拡大により「意思決定の遅れ」といった弊害さえなければ,政府によるアニメ産業に対する支援策には,これまで以上に期待がもてそうだ。

(中村 均=技術研究部)