ようやく,ほんとうにようやく,ブロードバンド通信サービスの最後の一つが現実になった。個人ユーザー宅にまで光ファイバーを引き込み,定額制でIPサービスを行う「光・IP通信網サービス(仮称)」が一部地域で始まる。

 申し込み開始は12月26日。64kbpsしか出ないフレッツ・ISDNよりもはるかに高速(約156倍)のうえに,ビット単価ははるかに安い(約54倍)。申し込み殺到して窓口は大混乱になるのは必至だ。

 提供地域はしかしながら,極めて限られている。当初半年間は試験提供。2002年ごろに政令指定都市,2003年ごろには全国の県庁所在地程度まで拡大していく方針だが,それは単なる目安。例えば私の住んでいる千葉県市川市などへは,さて,何年先になるのか,まったく不明である。このコラムで何度も書いてきたように10Mbpsクラスのアクセス回線が「今すぐにでも欲しい!」私のような人間にとって,これから何年か,不満の残る状況が続くことになる。

 「試験提供」というのは「実験」とは異なり,実サービスがどの程度実用的なのか,運用上解決すべき部分は何かなどを探るいわゆる「フィールド・マーケティング」だ。この試験サービスを通じて今後,全国展開をどう進めていくのかを探るのが目的の一つ。しかし試験提供の結果いかんによっては,さらに長く待たされることになることもありうる。

 大いなる不満が爆発寸前だが,全体を見ると後退はしていない訳だから良しとするべきなのかもしれない。しかし,黙っていては事態は好転しない。ユーザーが常に声を発していなければならないだろう。

 万が一,幸運にもあなたがサービス提供地域内にいらっしゃったとしても,問題はまだその先に残っている。アパートやマンションでは新築でも,光の終端装置から先の配線をする余地がないところが多く,建物外観にまで影響する工事となることもある。建築業者や建物の管理会社にはまだそうした問題意識が低く,問題認識に至るだけでもとてつもなく時間がかかることもある。

 IT Proを愛読されている先進的ユーザーなら,率先してムーブメントを起こしていってほしい。そうした一つ一つの積み重ねが日本の遅れた通信事情を少しでも良くする力になるだろう。

 管理組合や住民の理解を得るのも大変だ。インターネット回線を渇望している人はいまでも少なく,集合住宅単位で10世帯を確保するのはなかなか難しい。今回のサービスには,集合住宅のなかの1戸にサービスを提供するメニューはないから,1本だけ直接引き込むことはできない。たまたま新築のマンションに入居予定なら,館内を十分な品質のLAN回線が張り巡らされているかをしっかり確認しておこう。

 100Mbpsが通せるカテゴリ5のイーサネットが張られているかどうか確認したい。エンハンスト カテゴリ5のケーブルが張られているなら,ギガビットまで流せるから,10年やそこらは安心していられるだろう。電話回線をLAN代わりに使うHomePNAでも何とか頑張れば10Mbps程度出せるとは言うものの,その程度ではすぐに壁にぶち当る。足回りは十分に余裕を持てるようにしておきたい。

 光ファイバーは曲げに弱く,屋内配線の導管はゆったりと作っておく必要がある。現在は集合住宅各戸への配線はメニューにないが,将来は,各戸に1本が入るようになるかもしれない。どんなものが必要になるか分からないから,再配線がしやすい構造にしておく必要がある。増改築,あるいは新築の際にしっかりと太いパイプを準備をしておこう。

 かくいう私も今から7年前にマンションをリフォーム,LANケーブルをフローリング下に埋め込んだ口だ。その当時も業者さんに理解してもらうのが一仕事。頼んだ相手はインテリジェントビルなどの配線ではトップクラスの大手専門業者だったが,なかなかラチがあかなかった。

 時代が変わって,今度は光ファイバー+高速LANだ。デベロッパーあるいは工務店に一つ一つ注文を付けながら世界を押し広げていくことになりそうだ。

(林 伸夫=パソコン局主席編集委員)