NTT東西地域会社がFTTH(fiber to the home)の試験サービス「光・IP通信網サービス」(仮称)を12月26日に開始する。半年間の試験期間を経て本サービスに移行する予定だ。試験サービス中の提供エリアは,東京と大阪の一部に限定されるが,本サービスに移行した後にエリアを拡大し,2003年3月に政令指定都市,2004年3月には県庁所在地でも利用可能にする計画。ようやく,家庭にまで光ファイバが敷設される時代がやってくる。

 NTTのFTTHサービスで注目すべきは,集合住宅向けの格安メニューを用意した点だ。

 NTT地域会社が提供するFTTHサービスは,インターネットへの接続回線という位置付け。ADSLの約20倍に相当する最大10Mビット/秒でインターネットにアクセス可能になる(ただしインターネットに接続するには,別途プロバイダ料金が必要。FTTHサービス向けの料金を明らかにしたプロバイダはまだいない)。

 NTT地域会社は,10Mビット/秒の帯域を共用するユーザー数の違いにより,3種類のメニューを用意する。個人ユーザー向けといえるのはそのうち「基本メニュー」と「集合住宅向けメニュー」の二つ。基本メニューは,10Mビット/秒の回線を最大256ユーザーで共用するサービス・メニュー。月額利用料は1万3000円である。一方,マンションなどに住むユーザー向けの集合住宅向けメニューは,最大768ユーザーで10Mビット/秒の回線を共用するものの,月額3800円で利用できる。

 基本メニューの月額1万3000円というのは,個人ユーザー向けというにはかなり高額。一方,集合住宅向けメニューの月額3800円は,十分に手の届く範囲といえる。両者にこうした料金差があるのには,もちろん理由がある。

 まず挙げられるのが,前述したような10Mビット/秒の回線をどれだけ多くのユーザーで共用するかの違い。

 基本メニューが最大256ユーザーで10Mビット/秒の帯域を共用するのに比べて,集合住宅向けメニューは最大768ユーザーでシェアする。その差は実に3倍。10Mビット/秒を最大ユーザー数で割った帯域で見ると,基本メニューが約39kビット/秒で,集合住宅向けメニューが約13kビット/秒。参考までに,現在NTT地域会社が提供している定額ISDNサービス「フレッツ・ISDN」(月額4500円)は,NTTの地域IP網に入るまでは64kビット/秒を占有して利用できる。

 一見すると,この速度差は大きいように感じられる。しかし,これは実際には問題にならないはずだ。

 大企業のインターネット接続環境でも,大半が1.5Mビット/秒のWAN回線でプロバイダに接続している。WAN回線の速度は,速くても6Mビット/秒というところだろう。その回線を数百~千人規模の社員で共用している状況を考えれば,768ユーザーで10Mビット/秒の回線を共用するインターネット接続環境がいかに快適か想像できる。

 インターネットで使うプロトコル(IP)は統計多重で多数のユーザーを効率的に収容できるので,単純にユーザー数と帯域を積み上げて考えなければならないWAN回線のような時分割多重よりも,1ユーザー当たりの帯域幅の違いによる影響度は小さい。高速回線を使えば,なおさら帯域幅の差は気にならなくなる。

 束ねるユーザー数の違い以上に大きな料金差を生み出しているのが,設備の差だ。

 一戸建て住宅向けの基本メニューでは,各戸に1本ずつ光ファイバを敷設する。ファイバはそのままNTT局に収容され,局内で最大256ユーザーが10Mビット/秒の帯域をシェアする。一方,集合住宅向けメニューは,その建物1棟に対して1本のファイバを引く。集合住宅向けメニューを利用するには,その建物内に最低10ユーザーがいなければならない。複数のユーザーで1本の光ファイバを共用するので,その敷設コストを抑えられるのである。

 ただし,集合住宅向けメニューでは,建物内の配線はユーザー側の管轄になる。各戸への配線がない場合は,NTT地域会社が月額1200円程度で提供する屋内配線設備を利用することも可能。電話線を使って10Mビット/秒のデータ伝送を実現するHomePNA2.0を使う。この金額を加算すると,各戸まで配線した場合の月額料金は5000円程度になる。

 それでも,基本メニューの1万3000円に比べると低料金。個々にファイバの敷設コストがかかる以上,一戸建て向けのサービスは,束ねるユーザー数をいくら増やしても料金は下がりにくいのである。

 NTTの料金体系を見る限り,FTTHサービスを利用する一戸建てのユーザーはごく限られたパワー・ユーザーになりそう。一戸建てに住む一般的なインターネット・ユーザーは,ダイヤルアップの次の選択肢として,CATVインターネットや無線LAN,さらにはNTT以外の事業者が提供するFTTHなどのサービスに期待を寄せることになりそうだ。

(藤川 雅朗=日経コミュニケーション副編集長)