米Intelは2000年12月11日に,30nm(0.03μm)と世界最小のトランジスタを開発したことを明らかにした。同日開催の学会「International Electron Device Meeting(IEDM)」で発表したものだ。

 学会発表であり,研究開発レベルの話だが,その潜在能力はなかなかのもの。Intel社によると,動作周波数が10GHzで,動作電圧が1.0V以下,1チップに4億個のトランジスタを集積したマイクロプロセサを5~10年後には製造できるという。最新のPentium 4の動作周波数が1.5GHzで,トランジスタ数が4200万個なので,まさに桁違いのマイクロプロセサとなる。

 この発表の意義は,「半導体の微細化は今後しばらくは続く」ことを示した点にある。

 現在Intel社の名誉会長であるGordon E. Moore博士は1965年に,「ICに集積するトランジスタ数は18カ月で2倍になる」といういわゆる「Mooreの法則(http://www.intel.co.jp/jp/home/cpc/museum/Hof/moore.htm)」を提唱した。このMooreの法則は,Intel社のマイクロプロセサの歴史にピッタリ当てはまってきた(正確に言うと,Intel社以外のマイクロプロセサにも当てはまる)。今回の発表によって,さらに5~10年後にまで通用する法則になったわけである。

 Mooreの法則は,トランジスタ(プレーナ形MOSトランジスタという)の微細化が進むことで,1チップに集積できるトランジスタ数が増えていくというもの。ただ半導体の微細化には,LSIに詰め込めるトランジスタ数の増加以外のメリットもある。

 すなわちトランジスタの応答速度が速くなり,動作周波数が高められるとともに回路の動作に余裕ができるという点である。最近のマイクロプロセサ開発の状況を見ると,この応答速度の向上は非常に重要な意味をもっている。

盛りだくさんな機能にトランジスタの性能が追いつかない

 このところのマイクロプロセサの開発では,半導体の微細化によって集積可能となったトランジスタを,(1)内蔵演算器を増やし,同時に処理できる命令数を増加させる,(2)回路構成を工夫して動作周波数を引き上げる,(3)2次キャッシュなどを集積する,(4)SIMD(single instruction multiple data)命令などを追加する---ことに費やしてきた。

 つまり開発の主眼は,集積できるトランジスタを「何に使うか」という点だった。しかし機能が盛りだくさんになったことで,思わぬ弊害も生じた。集積した新しい機能に,トランジスタの応答速度が追いつけなくなってきたのだ。機能を詰め込んだ割に性能が出ない,という状況が生まれている。

 例えば,Pentium IIIプロセサ後継の「Pentium 4プロセサ」。Pentium 4は,Pentium IIIと同じ0.18μmルールの製造技術を使う。NetBurstと呼ぶスーパーパイプライン技術を使って,動作周波数をPentium IIIの1GHzから1.5GHzに引き上げた(回路の工夫で動作周波数を高めた。上記の(2)に該当する)。2001年第3四半期には,2GHzで動作するPentium 4が登場する予定である。2GHz品にも0.18μm技術を使う。

 しかし動作周波数は高まったものの,それに見合った性能をPentium 4が発揮しているかというと少々疑問符がつく。たとえば,米Advanced Micro Devices(AMD)の「Athlonプロセサ」の1.2GHz版よりも,ベンチマーク・テストの結果が劣る場合があるとの報告が後を絶たない。

 つまりスーパーパイプライン構造を導入して見掛け上の動作周波数は引き上げたが,Pentium 4の性能には「世代が新しくなった」というほどの向上はみられない。Pentium IIIに使っている0.18μmの製造技術にとってPentium 4は,技術的に荷の重いマイクロプロセサといえる。Pentium 4が真価を発揮できるのは,0.13μm技術で製造を始める2001年第4四半期以降となりそうだ。

回路設計と半導体技術のミスマッチがリコールの原因に

 2000年はマイクロプロセサのリコールが相次いだが,これも「機能(回路設計)に速度(半導体技術)が追いつかない」というミスマッチが原因となっている。1.13GHz動作のPentium IIIや米Transmetaの600MHz動作Crusoe(TM5600)のリコールに,その例を見ることができる。

 二つのリコールには共通点がある。すなわち,(1)機種としては最高動作周波数の製品がリコールの対象になった,(2)ハードウエアの設計上や製造上の欠陥が根本原因ではない,(3)動作する場合もあるし不具合が生じる場合もある,(4)あるソフトウエアを走らせるとハングアップなど動作が停止する不具合が起きる,(5)しかし原因が明確になっていない---などである。

 これは回路設計が,トランジスタの能力(応答速度)をギリギリまで使い切っていることに原因の一つがある。設計上のマージンが小さくなっているのだ。このため,製造上のバラツキによる影響を受けやすい。たとえば,急激に負荷が重くなるソフトウエアを実行するような場合に,チップによっては内部での処理が間に合わなくなりハングアップなどを生じてしまう。このほか,温度や電源電圧といった動作条件の微妙な変化も,不具合が発生するキッカケとなる。

 これらの問題には,製造や出荷段階での動作確認を徹底したり,問題個所のマージンを確保するように再設計を行うことで,対症療法的に対処することは可能である。しかし抜本的には,現時点より微細な製造技術を採用し,トランジスタの応答速度をもう一段速くすることが最良の方法である。

 こうした意味で,マイクロプロセサは2001年に新しい段階に入る。0.13μm技術での量産が始まるからだ。新たな機能を追加したときに,その真価を引き出せる環境がとりあえずは整う。

 すでにIntel社がPentium 4を,AMD社がAthlonの次世代品を,台湾VIA TechnologiesがCyrix IIIの次世代品を0.13μm技術で製造することを明らかにしている。いずれも2001年前半にサンプル出荷を始め,本格的な量産出荷は2001年後半となる。

 動作周波数や性能競争は,0.13μmの製造技術をいかに上手にそれぞれのマイクロプロセサに適用するかにかかってくる。0.18μm時代とは異なるレベルで,マイクロプロセサ・ベンダーはしのぎを削ることになる。

 いましばらくは「Mooreの法則」が生き続けるマイクロプロセサ。0.18μm,0.13μm,0.1μm・・・と,ベンダー間の熾烈な競争はまだまだ続く。

(神保 進一=インターネット局ニュース編集部次長)