今,21世紀の最初の号である2001年1月号の特集記事を執筆した。「お決まり」とも言えるが,21世紀を展望する内容の記事である。そこで21世紀のブロードバンド時代には,どのようなコンテンツが登場するか考えてみた。取材先にも,もちろん聞いてみた。

 ところが,自分で考えても,取材先に聞いてもなかなか「これぞ」というコンテンツに当たらない。もちろん何もないわけではない。映画などのビデオ・オン・デマンド(VOD)サービス,音楽や映画のダウンロード・サービスなどは当然,広く利用されるようになるだろう。映像による教育サービスや医療サービスも始まるに違いない。

 しかし,どれも目新しくなく,“パッ”としない。VODサービスや音楽のダウンロード・サービスは毎日使うようなものではない。ユーザーがいつも使うサービスで,生活スタイルまで変えてしまうものというと,なかなか思いつかない。

 しかし1つだけ,これは流行るかなと思うものがあった。テレビ電話,または,ビデオ・メールのサービスである。何も目新しくないではないか,と思われるかもしれない。その通りである。昔ながらのISDN用の専用テレビ電話機を思い起こすと,とても流行るとは思えないだろう。「祖父母に孫の顔を見せる」,「出張せずにパソコン上で会議する」なんて利用場面を考えていては見通しは暗くなる。

 少し発想を転換し,昔,一世を風びしたポケベルの延長で考えてみるのである。ポケベルは今はすたれ,iモードなどの携帯電話のメールに移行しているが,このメールは間違いなく一般消費者にとってのキラー・コンテンツである。これにビデオの機能が付けばどうなるか。ビデオ・メール,テレビ電話が使えるようになれば,若者から順に間違いなく活用し始めるだろう。

 ちなみに,ADSLユーザーが100万人を超えるなど,ブロードバンド・サービスが急速に普及している韓国では,実際にビデオ・メールがどんどん増えているそうだ。ADSLを流れるトラフィックを見てみると,当初は下りが圧倒的だったが,最近は上りが増えているという。その犯人がビデオ・メールのようだ。

 ブロードバンド時代になると,ネットワークにはコンテンツ・プロバイダが提供するデータではなく,ユーザー同士がやり取りするデータが大半になるかもしれない。携帯からでも,パソコンからでも,テレビからでも,ビデオ・メールをやり取りしたり,テレビ電話をかけるのが当たり前になる。データの内容はくだらないかもしれないが,それでブロードバンド・ネットワークが素早く普及し,安くなるなら素晴らしい。

(安東 一真=日経インターネット テクノロジー)