ちょうど2カ月前の10月中旬。ところは,大統領選で注目を集める米国フロリダ州。調査会社の米ガートナー主催の「ITエキスポ」が,世界50カ国から約1万人の参加者を集め6日間の日程で行われた。キーノート・スピーチは,米HP(ヒューレット・パッカード)のカーリー・フィオリーナ会長,米サン・マイクロシステムズのスコット・マクニリ会長,米マイクロソフトのスティーブ・バルマー社長の3人が務めた。

 マクニリ会長は,「最近1年間で2200社ものドットコム企業にサン社のサーバーを販売したが,生き残るのはせいぜい4~5社だろう」と,一時のブームが去り,米国の失業率を押し上げ経済に影を落とし始めたドットコム企業の厳しい現実について述べた。本欄で取り上げたいのは,それに続く同会長の発言。その発言が波紋を投げかけた。

 ガートナー社のアナリストが「2005年までに,ほとんどの外部ストレージはネットワーク化される」と予測したことについて,マクニリ会長は「ストレージというマーケットは存在しない」と斬り捨て,返す刀で「ソフトウエア市場というのも存在しない。ストレージもソフトもサーバーの付属品だ」と決めつけたのだ。

 SAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)やNAS(ネットワーク接続型ストレージ)の台頭によって,「ストレージが主体でサーバーがその衛星」となるコペルニクス的なシステム逆転の到来について,マクニリ会長は我慢がならぬ様子だった。もっとも,反論が出るのも早かった。マイクロソフト社のバルマー社長は,「過去20年間で聞いた最も馬鹿げた発言だ」と激しく応酬した。

 マクニリ会長のこの発言は,99年時点でサーバー本体とほぼ同じ市場規模となり,2003年にはサーバー本体を10%以上も上回る市場に成長するストレージを,米EMCや米NA(ネットワーク・アプライアンス)などのストレージ・ベンダーに奪われたくない,サーバー・メーカーの本心が吐露されたまでのこと。恐らくIBM社やHP社,米コンパック コンピュータ,富士通など,サーバー・メーカー共通の本音だろう。

 これまで情報システムは,サーバーやクライアントが中心で,ストレージはそれに従う周辺機器という位置づけだった。しかし,インターネットには数億ものWWWページが存在し,著名なポータル・サイトは1週間でT(テラ)バイト級の情報を創り出す。インターネットの心臓部はすでに,“サーバー・ファーム”ではなく,実は“ストレージ・ファーム”だという訳だ。

 こうした状況を背景に,サーバーから自立した巨大なアーカイブとして「SANかNASか」の論議が盛り上がっている。

 サーバー・メーカーは,サーバーとシームレスな環境を作り出せるという名目で,1Gビット/秒の専用ファイバー・ネットワークを売りものにSANを提唱する。片やストレージ専業ベンダーは,LANというユーザーが使い慣れたネット・インフラに接続するNASを担ぐ。これまでSAN一辺倒で押していたストレージ業界トップ・ベンダーのEMC社は12月にNASにも進出。SANとNASの両面作戦をとり始めた。

 ネットワーク・ストレージの主役の座を巡る「SAN・NAS論争」は“宗教戦争”にも似たおもむきだ。簡単に言えば,「NASは購入するストレージ。SANは構築するストレージ」という性格がある。

 ある情報システム・コンサルタントは,「年収1000万円以上のネットワーク技術者を,ストレージのためだけに増員できる,別の見方では情報システム部門の活動レベルが低い裕福なユーザーにはSANが向く」と話す。

 SANは複雑でインテリジェントな半面,行きすぎたテクノロジーのようだ。ガートナー社のアナリストは,「サーバー・メーカーは複雑なSANをユーザーに押しつけ,サービス収入で利益を得ようとしている」と喝破(かっぱ)した。「SANの付加価値はメーカーの方にある」との見方だ。

 しかも現状では,「ファイル共有はおろか,標準化されたソフトもスイッチもない未成熟な状態。ユーザーは幻滅を感じている」(ガートナー社)。異なるプラットフォームが混在するサーバー環境でのファイル共有は,メーカーが自社製ファイル・システムへの固執を放棄しない限り,永遠に実現しそうもない。

 10月末にフロリダで開かれた150ベンダーが参加するSNIA(ストレージ・ネットワーク産業協会)の総会でSNIA会長(EMC)は,「顧客は大手ベンダー同士がいがみ合うのではなく,異なる機器による構成でも利用できる製品の提供を欲している」と,いっこうに改善をみない業界の実情に警告を発したほどだ。

 ではファイル共有可能なNASが本命かというと,そうでもない。今の10Mビット/秒や同100Mビット/秒の帯域幅では,その30%程度しかストレージに使えないのでパフォーマンスが出ない。ここはGビット・イーサネットの登場を待たねばならない。GビットLANが使えるのは早くて2001年から。広く普及するのは2002年以降になろう。

 というわけで,SANもNASも騒ぐ割には「隔靴掻痒(かっかそうよう)」の感は否めない。顧客の方も,そんな業界事情を良く承知しているようだ。弊社主催のストレージ・セミナ(11月開催)に参加したユーザーの回答は,「SAN導入11%」「NAS導入10%」だが,今後1年以内の「SAN導入は4%」,同じく「NAS導入は5%」と冷めている。

(北川 賢一=日経システムプロバイダ主席編集委員)