「次世代パソコンの主記憶に何を使うか」。いま,パソコンの主記憶に使うメモリーを巡って,熱い議論が繰り広げられている。

 米Advanced Micro Devices(AMD)は,主記憶にDDR SDRAMを使うAthlon用チップセット「AMD-760」の出荷を2000年10月30日から始めた。米Intelも,2000年8月に開催した開発者会議「Intel Developer Forum 2000 Fall」で,Pentium 4搭載機の主記憶にDDR SDRAMを採用することを検討中だと発表した。その後同社は公式発表を行っていないが,最近になって“IntelはDDR SDRAMの採用を決定した”との報道が相次いでいる。

 つい最近まで次世代パソコン用の主記憶素子は,「Intel社などが強く推しているPC600/PC700/PC800 RDRAM仕様のDirect RDRAM」というのがコンセンサスだった。しかし,状況は急速に変わりつつある。Intel社の方向転換のウワサを含め,Direct RDRAMの対抗馬であるDDR SDRAMに強い追い風が吹き始めているのだ。

 では,「パソコンの次世代主記憶素子はDDR SDRAMで決まり」と言い切れるのだろうか。こうした意見に筆者は疑問を呈したい。

 パソコンの主記憶が,本格的にこれらの次世代品に置き換わるのは2002年後半のこと。現時点で今後Direct RDRAMが普及するのか,DDR SDRAMが台頭してくるのかを判断するのは時期尚早だと感じる。

 実はDDR SDRAMもDirect RDRAMも,主記憶への採用を考えるうえで重要なファクターとなる“システム・コスト”の面で問題を抱えたままである。いずれのメモリーも現時点では,SDRAMからスムースに移行できる環境を整えているとは言いづらい。ここでは,最近のIntel社の取り組みを振り返ることで,筆者の見方を説明したい。

IntelがDDR採用を決めたのは本心からではない

 Intel社が公式に発表している次世代主記憶に対する最新の考え方は以下の通りである。

(1)Pentium 4搭載システムなど性能重視パソコンの主記憶はDirect RDRAM。ただし,パソコン主記憶がいずれPC100/PC133からDirect RDRAMに移行するというシナリオは変えていない,
(2)低価格パソコンの主記憶はしばらくPC100/PC133 SDRAMの採用が続く
(3)PC100/PC133 SDRAMの後継としてDDR SDRAMの検討も始める

 つまり,現時点でDirect RDRAM素子と同モジュールの価格が高いので,価格を重視するシステムに使うことは難しい。この状況がしばらく続けば,低価格システムに載せるメモリにはDDR SDRAMを使うこともあり得る,というのがIntel社の考え方である。Direct RDRAMを採用するどうかは,技術的な問題はなく,コストによって決まるというわけだ。

 こうした状況でIntel社が描くシナリオ(ロードマップ)は,筆者の取材によると以下の通りである。

ステップ1:Pentium 4を使う低価格パソコン向けのチップセット「Brookdale(ブルックデール,開発コード名)」はPC133 SDRAMを主記憶に使う
ステップ2:パソコン・メーカーなどの要望に基づき,一時的な処置としてBrookdaleの後継品「Brookdale+(開発コード)」でDDR SDRAMにも対応する
ステップ3:最終的にはDirect RDRAMに移行する

 これは,DDR SDRAMが既存のPC100/PC133 SDRAMとほぼ同じコストでシステムに組み込めることを前提にしたロードマップ。やはり本心は,最終的にDirect RDRAMへ移行するところにある。DDR SDRAMはあくまで“つなぎ”と位置づける。Intel社の計画によると,PC133 SDRAMとDDR SDRAMの両方に対応するBrookdale+は,2001年後半にサンプル出荷を始め,2002年半ばに量産出荷を開始する。

 では,「DDR SDRAMが既存のPC100/PC133 SDRAMとほぼ同じコスト」というIntel社の前提は妥当なのだろうか。

 メモリー・メーカーの米Micron Technology社は,「PC133 SDRAMと比較してDDR SDRAMの価格にプレミアムはない」と主張する。DDR SDRAMは,基本的にメモリ・コアや内部のバンク構成,データ転送構造など従来のSDRAMとほとんど変わらないからだ。

DDR SDRAMのコストはこれから判明する

 しかしMicron社以外のメモリー・メーカーは,Micronの主張に異を唱えている。x16ビット品で比較すると,DDR SDRAM素子のチップ面積はPC100/PC133 SDRAM素子よりも4~5%大きくなるという(チップ面積は製造コストと密接な関係がある)。これに,米Rambusが主張しているDDR SDRAMに対する特許のライセンス料(約4%:筆者推定)が上乗せされ,製造コストは約10%程度は高くなる。

 Rambus社が保持しているDDR SDRAMに対する特許については,(1)ライセンス契約したメーカーと,(2)特許の有効性を確認するため係争中であるメーカー---にメモリ・メーカーの対応が分かれている。「DDR SDRAMに対するコスト増はない」としているMicron社は後者に属しており,Rambus社に支払うライセンス料は加味していない。

 ここで重要なのは,DRAMメーカーとして世界一のシェアを持つ韓国Samsung Electronicsと日本国内トップのDRAMメーカーであるエルピーダ メモリの動きである。Samsung社はこの11月1日に,エルピーダ メモリも11月2日に相次いでRambus社と,DDR SDRAM特許に対するライセンス契約を結んだ。DDR SDRAM特許に対してライセンス料を支払うメモリー・メーカーが主流となってきた感がある。これは,Rambus社が保持しているDDR SDRAM特許は技術的に避けられないと,各社が判断したことによる。

 ちなみにRambus社と係争中のMicron社などにしても,争点は技術面ではない。「Rambus社が特許を申請する前に,同社は業界団体JEDECに在籍し,汎用メモリ標準化の会合に出席していた。そのときの議論を基に,Rambus社は不正にDDR SDRAMに関する特許を取得した。しかもそれを公にしないように,特許の取り下げや分割を繰り返した」という論理を展開している。

 いずれにせよ,Micron社などの主張が認められればDDR SDRAMのコスト増はわずかなものになる。PC100/PC133 SDRAMの後継として有力になる。逆に認められなければ,他のメモリー・メーカーと同様にライセンス料を支払わなければならない。PC100/PC133 SDRAMの後継となるかどうかは即断できない状況となる。

 現在のPC100/PC133 SDRAMと比べてコスト高が10%を超えるかどうかは,非常に重要である。現時点のDirect RDRAMの価格はPC133 SDRAMと比較して約2倍だが,Intel社とメモリー・メーカーは,バンク構成を見直したDirect RDRAMを開発することで合意している。新型Direct RDRAMのねらいは,まさに「コスト増を10%に抑える」というものだ。こうなると「Direct RDRAMは高価で,DDR SDRAMは安価」という図式が,今後とも成り立つ保証はない。

 次世代パソコン用メモリーの主導権争いは,しばらくは混沌とした状況が続くだろう。そして雌雄が決するのは2002年というのが筆者の見方である。では間近に迫った2001年は,どういった状態になるのか。

 最後に,取材に基づいた筆者の予測を披露しよう。2001年のパソコン用主記憶素子のシェアは,PC133 SDRAMが約70%を占め,Direct RDRAMが7~8%,DDR SDRAMが7~8%,残りがPC100 SDRAMといったところが妥当だろう。

(神保 進一=インターネット局ニュース編集部次長)