このところ本誌の企画記事が電子商取引(EC)づいているので,ECにかかわるさまざまな企業におじゃますることが多い。夏まえには「売れる店」という視点で,つい先月には「ECサイトは止められない,24時間営業が当たり前」という視点でコンシューマ向けのECサイトを運営されている企業の方,ECサイトづくりにかかわっているインテグレータの方などに話を聞かせていただいた。

「売れる店」というのはやはり難しく,特に大手サイトとなると数えるほどしかない。勢い,「売れる店」の取材は規模の小さなサイトが多くなる。これら小さな繁盛店に共通していたのは,顧客とのコミュニケーションを非常に重視していることである。店長の顔が見えるサービスを心がけることで,リピート客をつかまえて放さない構造になっている。

 小規模とあなどるなかれ,繁盛店では月商2000万円などという例もでてきている。対する大手繁盛店は非常に強い商材を持っているか,あるいはECサイトの展開以前から通販形態のビジネスに十分なノウハウを蓄えてきているところがほとんどである。データベースを活用して多人数を相手にするワン・ツー・ワン・マーケティングの技術など,大規模サイトでも顧客とのコミュニケーションに軸足をおいたサイトが出始めているが,サービスの質という観点では古典的な対面販売を延長した接客形態に今はまだ分があるようだ。

 一方,「止められない」という視点では,かけるお金の多寡からいっても大手サイトの方が意識が高い。同じ時間だけ止まってしまった場合,大きなビジネスをしている方が逸失利益は大きくなるからだ。しかし,現実はそう単純でもない。ちょうど「売れる店」の取材をしていたころ,とあるセミナーで「まともなECシステムを作るには1億円かかる」という話を聞いた。今回もその話を胸に取材に臨んだが,とんでもない。ほうぼうで「もう1億円という時代ではない」という話を聞かされた。

 端的に言ってECサイトのサーバー群をインターネットに確実につなぐために,ルーターや負荷分散装置をきちんと二重化すればそれだけで5000万円や1億円はかかるというのだ。データベース・サーバーのライセンス料も,規模の大きなECサイトで使われるようなものであれば数千万~1億円程度するといわれる。

 ところが,ECに本格的に取り組もうとインテグレータを訪れる企業でも,想定している予算規模は5000万円や1億円というケースが多いという。この規模の予算でミッションクリティカルということを考慮したシステムを組むと,サーバー・マシンなどのハードウエアとデータベース・サーバーのライセンス料で予算を8割方食いつぶしてしまい,肝心のアプリケーション開発にはほとんど回らない。

 企業が本格的に取り組むにははなはだ不十分で,「その予算なら会社の看板を上げてまでやらないほうがいい」という話になることすらあるという。あるインテグレータは,「そういう企業も,たとえば銀座の一等地に出展するなら綿密な調査をして何十億円もかけるはず。オンライン・ショップでも同じことができてしかるべきなのに,そこまでの投資に踏み切れる企業は本当に少ない」と嘆く。

 もっとも,実店舗の世界でも,一方では大手百貨店が一等地の店舗閉鎖を余儀なくされ,一方では銀座や青山に世界のスーパー・ブランドがぞくぞくと集結しているという。それを考えればインターネットの世界で大規模な投資をして一等地的なオンライン・ショップを作ることに,本当に目があるのかどうかはわからない。

ブランドや商品力に頼らない,流通業としての大規模サイトを成功させるには,十分な額の投資とは別に何か革命的な仕掛けが必要なのかもしれない。

(斉藤 国博=日経インターネット テクノロジー)