先だってWindows NTのユーザー企業を取材で訪問した。クライアント向けのWindows 2000 Professionalでは業務アプリケーションが動作せず,当面は導入を諦めたという。Windows 2000の発売は2月のこと。Windows 2000では,細かい仕様変更によって前バージョンのWindows NT 4.0とアプリケーションの互換性が部分的に損なわれている。企業では,この互換性問題が発売から半年以上経った今も影響を及ぼしている。

 Windowsには,大きく分けてWindows 95/98系統とWindows NT/2000系統の二つがある。それぞれの系統で,OSの基本的な仕組みが異なる。Windows 95/98に対応するが,Windows NT/2000に非対応というパッケージ・ソフトは少なくない。両方のOSに対応するというソフトでも,OSの種類を調べて,各OSで動くプログラムを組み込んでいることがある。

 しかし実用上は,その2系統を区別する程度では不十分である。同じ系列でも,前述したようにWindows 2000とWindows NT 4.0のあいだには互換性の問題があるからだ。たとえばワープロ・ソフトの「一太郎 10」は条件によってはまったく起動せず,ジャストシステムはWindows 2000に対応した「一太郎 10 /R.2」を発売した。マイクロソフト自身も,「Office 2000」がWindows 2000で引き起こすバグなどを修正するために,「Office 2000 Service Release 1アップデート」と呼ぶモジュールを提供するなどしている。

 互換性が失われるのは,必ずしもOSのバージョンアップ時とは限らない。マイクロソフトは,OSのバグ修正モジュールを「サービスパック」と呼ぶ名称で配布している。ところがこれを適用すると,一部のアプリケーション・ソフトウエアが動作しなくなることがある。Windows NT 4.0のService Pack 4(SP4)では,ディスク・ユーティリティ・ソフトなどで不具合が生じた。アプリケーション・ベンダーは,アプリケーションの修正モジュールやSP4対応の新版を用意するハメに陥った。

 作り手であるマイクロソフトの側にも,言い分はある。同社は,Windows 2000の発売前後に,「Microsoft Windows 2000アプリケーションの互換性」など複数の技術文書を提供している(http://www.microsoft.com/japan/developer/windows2000/default.asp)。それによると,安定性やセキュリティの向上が仕様変更の理由という。いわばユーザーにとってもメリットのある改良という主張だ。

 しかし,互換性に欠けることのデメリットをマイクロソフトは過小評価しているのではないか。

 パッケージ・ソフト・ベンダーがWindows 2000対応のソフトをそろえ始めたのは,この夏のことである。そもそも,マイクロソフト自身が「Office 2000 Service Release 1」で互換性を含む各種の不具合を修正したのが5月なのだ。しかも,企業が開発したアプリケーション・ソフトウエアは,自らが改良に取り組まなければ永遠に新しいOSに対応できない。こうした状況では,新しいOSの導入意欲も萎えてしまうというものだ。

 折しも,開発コード「Whistler」で知られるWindows 2000後継OSのベータ初版の提供が始まった。Windows 95/98系列とWindows NT/2000系列のOSの基本部分を共通化するというのが「Whistler」の大きな特徴の一つだ。OSの仕組みにどの程度の変更が加えられているのかは不明だが,これまでのアプリケーション・ソフトウエアや周辺機器がきちんと動作するレベルの互換性を維持する努力を怠れば,混乱を引き起こすのは必至だろう。

(干場 一彦=日経Windows 2000副編集長)