ドメイン名の選択肢が広がっている・・・・ように見える。日本語ドメインである。ただ,本当に選択肢は広がっているのだろうか。よくよく考えて見ると,ふつふつと疑問と不満が沸いてくる。誰が悪いわけでもないが,どうしてもこれを解消するアイデアが浮かばない。

 このところ,nikkeibp.co.jpのようなドメイン名に日本語(厳密には日本語以外も含まれるが)を使おうという動きが目立ってきた。

 すでに国内ではインターネットワンジャパンが日本語ドメイン・インデックス・サービスを提供している。ドメイン名の末尾が「.jp.io」になるものだ。これに加えて,米eNICがccドメインで日本語をサポート。米i-DNS.netインターナショナルも日本語ドメインを提供予定。さらに,日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)は,2001年1月にも始める「汎用JPドメイン」という新しいサービスの一環として日本語をサポートする。.comドメインも日本語対応になりつつある。米ネットワーク・ソリューションズがテストベッドとして日本語や中国語のドメイン名登録を受け付け始めた。

 そもそも日本語(多言語)ドメインは,日本のユーザーにとって,英数字だけのドメイン名はとっつきにくいという思いから考えられた。年配者や児童などまでインターネット・ユーザーのすそ野が広がれば,アルファベットだけというドメイン名は確かに使いにくいかもしれない。「人にやさしく」というのが根底にある。かたや,企業ユーザーの観点からは,商標や商号をそのままドメイン名に使いたいというニーズもある。そのためには,日本語対応は欠かせない。

 しかし,日本語ドメインを登録できるトップ・レベル・ドメイン(comやjpなど)がこう増えてしまうと,何やら「本当にこれでいいのか?」という気がしてくる。別にeNICやJPNIC,NSIが悪いわけではない。彼らは彼らのビジネスを展開しているだけだし,ユーザーのニーズは確かにそこにありそう。例えばccドメインは登録を始めた10月10日,1日で1万件ものアクセスがあったそうだ。

 気になるのは,1つの企業がそれぞれのトップ・レベル・ドメイン(TLD)について日本語ドメインを取得しようとするのではないかということ。第三者によるドメイン名利用を防ぐためである。ヒット商品の名前や大手企業の名前など,よく知られている言葉を,その名前の所有者(商品のメーカーなど)以外がドメイン名として登録し,使ってしまう例はすでにある。わざわざ使いもしないドメイン名を取得して,あとから売りつける輩もいる。

 ドメイン名に日本語を使えるとなれば,ユーザーにとっての認識率が上がるだけに,他人に商品名や企業名のドメイン名を取得されることは避けたいだろう。例えばソニーが「プレステ.com」を登録するとしよう。その場合に,第三者が「プレステ.cc」を利用し始めたらどうするだろう。どうしても,それぞれのTLDについて日本語ドメインを取得したくなってしまう。

 「ウチは.comだけ」とか「.jpだけは取得しておこうか」というように,不要な日本語ドメインはあえて取得しない方法もある。第三者が日経BPのドメイン名を利用した場合には,調停に持ち込み,ドメイン名の利用を差し止めることは不可能ではない。しかし,それには時間とコストがかかってしまう。だから,ドメイン名の悪用を恐れると,やっぱり考えられる日本語ドメインは先にすべて取得しておくというケースが多くなるのだろう。

 弊社の場合なら,「日経BP.jp」,「日経BP.com」,「日経BP.cc」,「日経BP.jp.io」と,一連のドメイン名を取得せざるを得ないことになる。日経BP社の場合,雑誌名も数十ほどあるため,それぞれのドメイン名を取得しようと思うと,100個を優に超えてしまう。さらに言えば,正式名称だけが対象とは限らない。前述の「プレステ.com」の例でいえば,プレイステーション,プレーステーション,プレステ2,などさまざまな変形が考えられる。そのひとつ1つについてドメイン名を登録するとなると,ドメイン名の登録料はいったいどれだけかかるのだろう。

 しかも,それだけドメイン名を取得しても,目的が第三者による利用の防止だけに,実際にはほとんどは使わずにお蔵入りになるだろう。つまり,ドメイン登録料は本来不要な投資ということになる。せめて1つのTLDだけならそれほど気にならないものを,ブームに乗じていくつも日本語をサポートするTLDが出てきてしまっている。

 もちろん,ドメイン名を悪用されて,被害をこうむることを考えれば,危機管理の観点での投資であり,まったく不要というわけではないだろう。企業にとってみれば,ドメイン名登録料などははした金なのだろうか。世の中,ほとんど使わないものに金を払うことは珍しいことではないのだが。でも,やっぱりなんだか釈然としない。結果として,ドメイン名登録業者たちは,こうした“あぶく銭”を手にすることになるのだから。

 繰り返しになるが,これは別にドメイン登録業者が悪いということではない。悪いという点では,ドメイン名を悪用する輩が悪いだけだ。それを防ぐのは事実上不可能だろう。やっぱりどうにもならない。あぁ,この不満,ぶつけどころはないものか。

(河井 保博=日経インターネット テクノロジー)