音楽圧縮技術MP3の登場によって,CDの音楽をパソコンで再生可能な音楽ファイルに変換するツールが多数登場した。

 これらの変換ツールは使いやすく,出来上がった音楽ファイルも比較的容量が小さい。したがって,インターネットの普及とともに,MP3で圧縮した音楽ファイルの交換が流行した。その結果,インターネットを利用した音楽革命が始まった。MP3形式の音楽の人気が高まり,ソフト,ハードあるいはコンテンツなどにかかわる会社が,MP3を使って新しいディジタル音楽市場を作り出そうとしている。

 こうしたMP3の急成長を受けて,米iCastという会社がオープン・ソースの音楽圧縮技術「Vorbis」のベータ版を6月20日に公開した。正式版は7月末に公開する予定。Vorbisは,iCastが買収したインターネット・ラジオ「Greenwitch」の開発者が参加するオープンソースの開発プロジェクトから生まれた。この開発者たちは,オープン・ソースのストリーミング・サーバー「Icecast」の開発にも関係している。

オープンほど普及が早い

 Vorbisを利用すると,MP3と同等の音質で,ファイル容量はMP3よりも小さくなるという。ただ,MP3は10年前に開発された技術なので,Vorbisだけでなく,AACやTwinVQ,Windows Mediaといった圧縮技術もMP3より優れている。やはり,Vorbisの大きな特徴はオープン・ソースという部分だろう。

 「MP3が成功した大きな理由は,他の技術よりもフリーでオープンなため」と言うのは,ディジタル音楽関連のECサイトを運営する米EMusicの技術担当シニア副社長ブレット・トーマス氏である。

 同氏によれば,MP3を開発したドイツFraunhofer IISのライセンス条件が緩いので,MP3ブームを関連のソフトを安く販売することができた。だが,MP3は無料ではない。エンコーダを販売するなら,Fraunhofer IISにライセンス料を支払う義務がある。Web上でMP3コンテンツを提供する会社もライセンス料を支払う必要がある。これに対してVorbisはオープン・ソースであり,利用は無料である。技術者がソース・コードをベースに作業することも可能なので,改良したり,自分の開発したソフトと統合しやすい。

 「Linuxのように技術をオープン・ソースで公開すると,技術の進歩と普及が非常に早い。Vorbisも同じ方向に行くことのではないかと期待している」(前出のトーマス氏)。

オープン・ソースの音楽配信システムが誕生?

 ディジタル音楽配信が成功するかどうかについては,まだ議論が続いている。ディジタル音楽革命を引っ張っている独立系のアーティストやレコード会社にとって,オープン・ソースの圧縮技術は自分達を大企業から守るための盾になるだろう。

 音楽関係のオープン・ソース技術は,VorbisやIcecast以外にもまだある。EMusicが開発に関わっているFreeAmpというディジタル音楽プレーヤ,音楽や他のファイルを共有するGnutellaなどである。こうした技術の組み合わせによって,1つの会社では管理できない独立系アーティストでも利用できるようなオープン・ソース・ベースのディジタル音楽流通システムが生まれるつつある。この活動は音楽にとどまらないらしい。

 VorbisのWebサイトには,オープン・ソースのビデオ圧縮技術も開発する予定だと書いている。