今年に入って新聞や雑誌をにぎわせている言葉の一つに,「デジタル・デバイド(情報格差)」がある。インターネットやパソコンが普及し,それらを利用できる/使いこなせる人と使えない人との間で,収入や教育レベルの格差が広がるというものだ。

 デジタル・デバイドは主に一般社会での格差を指すが,企業のなかにもデジタル・デバイドがある。パソコンの一人1台体制を実現した企業は,次の段階として,電子メールやグループウエア,WWWブラウザを使ったイントラネットなどで,さまざまな情報を社員に提供し始めた。その情報をうまく入手したり,活用したりできるかどうかによって,出世や収入に大きな格差がついてしまうのだ。情報を活用できずに仕事の効率が上がらないことは,本人が不利益を被るだけでなく,企業にとっても大きな問題である。

 この,”社内デジタル・デバイド(情報格差)”の解消に,iモードが有効そうである。社内情報格差が起こる原因はいくつかあり,iモードは,これらの原因を取り除く力を秘めているからだ。

格差を生むリテラシの差を,iモードが埋める

 デジタル・デバイドという言葉は使わなくても,「せっかくシステムを整備し,情報武装しても効果を上げられない人がいる」という話は,オープンシステムという言葉が登場し,EUC(EndUser Computing)が叫ばれ始めた10年近く前からあった。

 システムを活用し,業務に生かす能力は「情報リテラシ」と呼ばれる。リテラシ(Literacy)とは英語で,「読み書きの能力」という意味だ。パソコンの配布といった環境整備の進展に情報リテラシの向上がついていかないと,宝の持ち腐れになって効果は上がらない。

 情報リテラシが向上しない理由の一つに,そもそも「コンピュータ・リテラシ」が低いというものがある。コンピュータ・リテラシとは,パソコンやソフトウエアを操作できる能力のこと。キーボードやマウスを自在に扱ったり,ワープロや表計算ソフトを使ったりできる能力である。

 各企業は情報リテラシ向上のために,さまざまな対策を施している。コンピュータ・リテラシ向上のためのパソコン講座を開き,業務に活用するための情報加工術をカリキュラムとして用意する,などだ。表計算ソフトを使って自分で情報を加工できない人でも,WWWブラウザさえ使えれば所望の情報を得られるようなイントラネット・システムを整備する会社も多い。ニーズの高い情報をメニューで用意し,クリックするだけで情報が得られる。ロジックをすべてサーバー側でもつイントラネットでは,従来のC/S(クライアント/サーバー)型システムに比べて,新しいニーズに即座に対応しやすい。

 このような努力をしても,なかなか情報リテラシの向上は難しい。特に,営業などの外回りの人の情報武装が進まないようだ。そのような人こそ情報武装が効果的なのだが,社内システムにリモート・アクセスする環境を整えても,利用してもらえない。

 まず,コンピュータ・リテラシの問題がある。それをクリアしてノート・パソコンを持ち出しても,OSを立ち上げてリモート・アクセスするまでの操作に時間がかかる。そこまでやって,通信環境の設定などを間違えてアクセスできなかったりすると,二度と使いたくないと思ってしまう。何かトラブルがあっても自分で解決できるような人は有効活用し,そこで大きな情報格差が生まれる。

 ここで,iモードの登場だ。ご存知の通りiモードは,WWWブラウザを搭載した携帯電話である。WWWブラウザといってもOSやソフトウエアの立ち上げなどは必要ない。アクセスしたいときに,すぐにアクセスできる。NTTドコモのiモード・センターの障害を除けば,アクセスできないというトラブルが起こることは,まずない。特に外回りの人たちならば,すでに携帯電話は持ち歩いているだろう。システム利用のためにわざわざ別のマシンを持ち歩くことがない点は大きい。多少試行錯誤をすれば,操作に悩むことも少ないのではないだろうか。

 つまりiモードを使うことで,コンピュータ・リテラシの低さというカベ,実際にアクセスするまで面倒だというカベなどを取り除ける。ノート・パソコンの弱点である携帯性やバッテリ動作時間の短さなども,iモードなら問題ない。これらだけでも,情報リテラシ向上の第一関門は突破できる。

 気になるのは,iモードで本当に業務システムは作れるのかという点だ。プライベートでエンターテインメント系のサイトにアクセスしたり,モバイル・バンキングを利用したりするならまだしも,あれだけ小さな画面で,”使える”業務システムは構築できるのか? レスポンスはどうか? 構築は大変ではないのか? ランニング・コストはどうか?---が知りたいところである。

iモードを利用した業務システムの使い勝手,通信料金,構築コスト

 それらを検証するため,日経オープンシステムはシステム・インテグレータのシステムコンサルタントと共同で実験を行った。同じ目的のシステムをWWWブラウザ版とiモード版の両方で構築し,比較してみたのだ。アプリケーションは,営業担当者が受注番号を選択してその内容を確認し,受注数量と在庫の関係から,必要な仕入先に発注指示を出すというもの。「検索/照会+簡単な更新」系のシステムである。

 WWWブラウザ版は,WWWサーバーに対してノート・パソコンでアクセスする。ISP(インターネット接続事業者)経由とRAS(リモート・アクセス・サーバー)経由の2系統から,PDC(携帯電話,回線速度は9600ビット/秒),32K PIAFS(PHS,同32Kビット/秒),64K PIAFS(PHS,同64Kビット/秒)という複数の回線速度でアクセスした。

 結果は,iモード版のレスポンスはWWW版に比べてワンテンポ遅かった。WWW版では,やはり回線速度が速いほどレスポンスは良いが,同じ9600ビット/秒でも,iモード版よりWWW版がレスポンスは良かった。サーバーからクライアントへのデータ量(トラフィック)は,カラー表示などで見た目を凝ったWWWブラウザ版がiモード版の倍以上あっても,だ。

 操作性も,大画面/カラー前提のWWWブラウザ版と比較すれば劣る。iモードでは,検索結果の表示でスクロールが発生すると,操作時間は格段に長くなる。WWW版では,JavaScriptと呼ばれるパソコン側で動作するプログラムによって操作性を向上させたが,iモード版ではJavaScriptが使えない。

 それでも結論は,「iモードは業務システムに使える」だった。最大の理由は,やはり手軽さ。前述のレスポンスは純粋にシステムにアクセスしている時間だけ。WWW版では,ISPやRASへの接続,そしてOSやWWWブラウザの立ち上げ時間を含んでいない。そのような作業をせずに,情報を得たいときにすぐに利用できる手軽さは魅力的だ。

 さらに前述のレスポンスや操作時間は,あらかじめ決めた作業を機械的に操作して時間を測り,比べたものである。実際には表示した内容を読んだり,考えたりする時間があるはずだ。これらの時間を考慮に入れると,数秒から数十秒というレスポンス/操作時間の差は,さほど大きくはない。そして,この思考時間は通信料金に大きく影響する。

 iモードは実際のトラフィックにのみ課金される。つまり,思考時間中は料金はかからない。一方のWWW版は通信時間に課金されるため,操作に手間取ったり思考時間が長くなったりすると,通信料金はどんどんかさんでくる。料金的には,1回のアクセスで数多くの作業をこなし,かつ思考時間が短いならWWW版,単発の作業をこまめにする,もしくは考える時間をとりたいならiモード版といったところだろうか。

 実は今回のシステムは,すでにWWW版があるものからiモード版を作った。システムを構築していただいたシステムコンサルタント スーパーネット部プロダクトマーケティングマネージャーの小山和良氏は,iモードの仕様を全く知らない状態で構築を開始。実際にiモード対応の携帯電話を用意し,表示できるかどうかを試行錯誤しながら構築した。にもかかわらず,構築は半日強で済んでしまった。

 理由は,iモードの仕組みは通常のWWWシステムと同じで,通信プロトコルやページ記述言語も,ほぼ同じだからだ。JavaScriptやCookieと呼ばれる仕組みが使えない,タグの利用に制限がある,といった違いさえ把握すれば,WWWシステムを構築するのと大きな違いはない。むしろクライアント側で何もできない分,通常のWWWシステムよりも構築は楽かもしれない。

 上記のレスポンスや使い勝手に関しては,文章で説明されてもピンとこないだろう。日経オープンシステムのホームページ( http://nos.nikkeibp.co.jp/)では,今回の実験のために構築したサイトへのアクセスの仕方やソース・コードの一部を公開している。ダイレクト・キーを使えばiモードでももっと操作性を上げられるとか,ソース・コードに試行錯誤の後が残っているといったご指摘はあると思うが,ぜひ,使い勝手やレスポンスを試してみてほしい。

 筆者は,参照系や入力項目が少ない更新系のシステムではiモードは検討に値すると結論を出した。これが社内デジタル・デバイド解消の近道の一つだと考える。

 あなたは,どうお感じになるだろうか。