1995年ごろを境に,企業へのパソコンとネットワークの導入が一気に進んだ。今やほとんどの大企業が一人1台以上のパソコン環境を構築し,インターネットによって社内外と連絡を取り合うようになった。

 ペーパーレス化も進み,グループウエアやワークフローの活用でドキュメントなど定性情報の蓄積が急激に進んでいる。一方,定量データを中心とする基幹業務処理では,ERPの導入によって時系列生データがデータベースに蓄積されるようになり,現状がリアルタイムに把握できる体制が整いつつある。

 しかし,ディジタル化された詳細な定量データや定性データが,利用者に引き出しやすい形になっているかというと,残念ながら現状はお寒い限りである。

 1980年代の後半に,「情報系システム」という言葉が流行ったことがある。当時は,メインフレームの全盛期だったが,データベースにはできるだけサマリーされたデータを蓄積して,生データは磁気テープに格納していた。取り扱うデータは,定量データが中心で,データ項目はテキスト(英文字)と数値がほとんどだった。

 こうした状況下では,端末からデータをアクセスしても,問題の発見から原因の追及につながるような情報を得ることは難しかった。加えてハード,ソフトが未発達ということもあって,オンラインでアクセスすると時間がかかった。

 100億円を投じて構築した情報系システムでも,実用的なレスポンスを得るには,同時アクセスする端末数をせいぜい数十台に制限する必要があった。したがって,情報系の端末を必要な人に一人1台用意することは無理で,せいぜい課に1台設置する程度でお茶を濁していた。情報量も不十分だった。利用者が自由に情報活用を図るという情報系の理想は,絵に描いた餅に終わった。

 これに対し,現在は「新しい情報系」を構築しやすい環境になっている。つまり,(1)定量データや定性データを含めた詳細な情報の蓄積が進んでいる,(2)パソコンが一人1台以上導入されている,(3)大量のデータを高速にアクセスできるハード,ソフト,ネットワークが安く手に入る,(4)分散されて蓄積されているデータをインターネット環境で統合的にアクセスできるツールやソフトウエアが登場している,からである。

 なかでも重要なのは,インターネット技術の活用である。インターネットでは,マルチメディアを統合的に取り扱うことができる。音声や静止画像,動画像などを扱うことで,情報系の適用範囲がぐんと広がる可能性を秘める。さらにプッシュ技術を活用すれば,個々の利用者の要求に応じた情報を送信することもできる。例えば,「ある商品が急激に基準在庫を下回りそうになったら,その商品名と在庫の変動量を担当者に知らせる」といった個別のニーズに対応でき,速やかに次のアクションにつなげられる。

 インターネットの技術を用いれば,パソコンのブラウザ・ソフトウエアから利用でき,しかも分かりやすいインタフェースを備えた情報系を,イントラネットやエクストラネットで実現できる。こうした環境を表すキーワードとして,米国ではEIP(Enterprise Information Portal)という言葉がさかんに使われるようになっている。最近では,さらに縮めてCP(Corporate Portal)やEP(Enterprize Portal)とも呼ばれる。これからは,企業内に設けたポータル・サイトが必要な情報をアクセスする統合的な窓口となるのである。

 最後に付け加えたいのは,内部情報だけでなく,外部情報の活用を進めることだ。そのためにはEIPに,外部情報にアクセスする仕組みを取り入れる必要がある。企業内で蓄積される内部情報は,ほとんどが「結果」の情報である。その情報を分析しても過去の成功や失敗の原因は追及できるが,将来を予測するには情報不足である。将来を占う情報,つまり外部情報が加わったら,その価値が倍加することは容易に想像がつくだろう。

 幸いにしてインターネットでは,顧客のホームページ,「顧客の顧客」のホームページ,ライバル企業のホームページ,業界のホームページ,官公庁・研究機関のホームページあるいはマスコミ/通信社のホームページなど,ビジネスの先行指標となる情報を容易に入手できる。

 これらの情報をロボット・ソフトのようなものを用いて自動的に収集(たとえばリンクを張る)してEIPのデータベースに格納するのである。こうして入手した情報を関係部門に伝達するにはプッシュ技術が大いに役立つ。

 社内外の情報をカバーする総合的なEIPによって,自分の担当しているビジネスの状況がよく分かり,マーケットの動向に自然に目が向くようになる。21世紀に生き残るためのビジネス・マインドが醸成され,変化への適応力の向上や問題解決のスピードアップなどが図られて,企業としての競争力が大いに増すことになろう。

(上村 孝樹=コンピュータ局主席編集委員)